第23章 17歳
だがその不安も、今この瞬間に取り払われた。
……兵長が執務を手伝ったお礼をしてくれるなんて!
軽くなる心。羽根が生えて飛んでいってしまいそうな浮き立つ気持ち。
それらはマヤの顔色を明るく輝かせ、表情を際立たせる。
「兵長…!」
声も躍る。
「ありがとうございます!」
「礼を言うのは俺の方だが」
「そうかもしれないけど… すごく嬉しいです。頑張って良かった…」
言葉の終わりの方は、ひとりでつぶやくように。
腕の中のマヤが幸せそうに微笑んでいる。
その笑顔を間近で見られただけでも、そのマヤを抱きしめることができただけでも、誘って正解だったとリヴァイは思った。
「……どこへ連れていってくださるんですか?」
そう訊かれてリヴァイは少し思案する。
どこに行くかなんて具体的には考えていなかった。ただ、あのとき約束した丘の景色を一緒に眺めたいと願っただけで。
「そうだな…。爺さんの店なんてどうだ?」
「……爺さん?」
腕の中で首をかしげるマヤは、小動物のようで愛らしい。
「俺の行きつけの紅茶屋だ」
「あぁ!」
そう言われたら以前に聞いたことがある。
確か紅茶の淹れ方が上手で、三本の指に入るとかなんとか。
「紅茶の勉強になりそうだし、すごく行きたいです」
「……なら良かった」
「楽しみにし…」
マヤが何か言いかけたときに、ばんと扉のひらく音が響いた。
「リヴァイ兵長、いらっしゃいますか?」
……この声はペトラだ!
マヤは急にやってきたペトラに驚いて言いかけた言葉をのみこむ。
「……あれ? いないのかな」
ぶつぶつとつぶやきながら、倉庫の奥へ進みながらリヴァイを捜している。
「俺ならここだ」
リヴァイはマヤを放すと、立ち上がった。