第23章 17歳
呼びかけに反応がない。
……チッ、ふざけた野郎だ。
仕方ねぇな…。
「出る気がないなら、こっちから行く」
幾つか並ぶ棚を過ぎても、いねぇ。
……一番奥の棚のところか。
それにしても、だんまりを決めこむとは。
「誰だか知らねぇが、盗み聞きとはいい度胸だよな」
……この角を曲がれば。
───────────────!!!
視界に飛びこんできたのは、落ちる瞬間のマヤの姿。
……危ねぇ!
その刹那、勝手に体が動いていた。
マヤが床に落下する直前に受け止めることに成功した。
「大丈夫か?」
腕の中のマヤはかすかに震えているが、意外としっかりとした声で謝る。
「すみません! 盗み聞きする気はなかったんです…。ごめんなさい…」
……そんなことはもう、どうでもいい。
「それより怪我はねぇか?」
大丈夫だと答えるマヤ。
……良かった。確かに大丈夫そうだ、なにしろ俺の腕の中にいるんだから。
あぁ…、やわらけぇ。それに… あたたけぇ。
それから。
なんだか無性にいい匂いがして、腰が抜けそうだ。
唐突に脳裏に浮かぶ、ミケが執務室でマヤを抱きしめていた光景。
あぁ、俺は匂いフェチでもなんでもねぇが、今ならミケの野郎の気持ちがよくわかる。
このまま世界の終わりまでマヤをこの腕に閉じこめてずっと、ずっと嗅いでいたい。思いきりマヤの髪に顔をうずめて、この世のものとは思えないほどの極上の香りを独り占めしたい。
ミケに先を越された、ミケがマヤにふれて嗅いだと思うと殺意がぶくぶくと沸き立つ湯のように。
……あいつ… 今度マヤを抱きしめたら、ただじゃおかねぇ。