第21章 約束
私が口づけた瓶を兵長が…。
兵長のくちびるがふれた瓶。
もし今私がもう一度この瓶から葡萄水を飲むならば、私のくちびるが…。
……もしかしなくても間接キスだ…。
ふと浮かんだ疑問が確信に変わった瞬間に、それでなくてもトクントクンとうるさかった心臓がさらに激しく早鐘のように。
……こんなにドキドキして、顔も赤くなって。絶対にばれちゃう。
恥ずかしさのあまりに心なしか瓶を持つ手が震えている気がする。
どうしよう、こんなにも意識してしまっている自分が情けない。
視線を瓶から隣のリヴァイ兵長にそっと向けると、その切れ長の目が “まだ飲まないのか?” とでも言いたげな風情でじっと見つめてくる。
……兵長にとっては全然なんでもないことなのに、恥ずかしがっている自分が馬鹿みたい…。
兵長に気づかれないためにも、早く何気ないふりをして飲まなくちゃ。
マヤは覚悟を決めて、えいっと瓶に口をつけると一気に飲み干した。
調整日の今日は、ヘルネの街で石けんなどの日用品を買いに足を伸ばした。
リヴァイの愛用している石けんは、職人がひとつひとつ手造りしたもので木の箱に入って売られている。100%天然植物性の原料のそれは非常に高価な逸品で、なおかつ生産数が限られており、なかなか入荷もされない。
前回に商店に立ち寄ったときに、そろそろ入荷されるだろうから取り置きしておきますと声をかけられていたのだ。
店ではいつも愛想の良い女店主が、貴石でも扱うような手つきで奥の棚からリヴァイのために取り置きをしてあった石けんの木箱二つを手にして出迎えた。
「ご確認ください、兵士長殿」
うやうやしい手つきで木箱のふたを取ると、清潔感の際立ったミュゲの爽やかな香りがふわっと立ちこめた。