第21章 約束
ハンカチの上に腰を下ろすと、リヴァイ兵長には片手を伸ばせば届く距離。
立って街を眺めていたときとその距離は大して変わらないはずなのに。
こうしてやわらかな緑の上に並んで座ると、ぐっと近く感じられるのはなぜだろう。
マヤにはトクントクンと打つ胸の音が、風が樫の葉を揺らす音より大きく感じられて、丘いっぱいに響いている気がして。
「あの…」
緊張で少し裏返っている自分の声は別人のようだ。そのことに気づけば、顔がかぁっと熱くなってくる。
「兵長もいかがですか? クリームパンとクロワッサンしかないんですけど…」
がさごそと紙袋を鳴らして、クリームパンを取り出した。
「いや、いい」
「そうですか…。あっ、クロワッサンの方がいいですか?」
兵長にクリームのたっぷり詰まった甘いパンは似つかわしくない。まだクロワッサンの方が食べられるのでは…?
マヤはそう思って、クロワッサンを取り出そうとしたが。
「お前の昼メシだろ。俺はいい」
「………」
“俺はいい” と言ったきり、じっと横から見てくる兵長の存在が非常にマヤには苦しい。
胸もなんだかドキドキして苦しいし、今からパンを食べるところを見られるのかと思うと、もっと苦しくなってくる。
だが… お昼を食べると宣言してハンカチまで敷いて座りこんでしまった以上、もうパンを口に放りこむしかない。
マヤはぎゅっと目をつぶって、覚悟を決めた。
「いただきます!」
クリームパンに、ぱくっとかぶりつく。
食堂のパンはいつも、手でちょうどよい大きさに千切ってから食べているが、“アメリ” のクリームパンのクリームの量は半端ではないのだ。手で千切ったりなどすれば、あっという間にクリームがあふれ出て、手も膝の上も大惨事に見舞われることだろう。
ひとりならパンに大きな口を開けてかぶりつくなど別になんでもないことなのだが、今はリヴァイ兵長がなぜか凝視してきている。
マヤは恥ずかしくてたまらなかった。