第21章 約束
しばらく二人の間には、風が奏でる樫の葉のそよぎだけが流れていた。
リヴァイとマヤは互いを見ることはなく。
ヘルネの街並みを漫然と眺めていた。
ふと風が止まる。
「ところで…、お前は何をしに来た?」
「あ…」
マヤは今の今まですっかり忘れてしまっていたパン屋の紙袋のことを思い出した。
「ここでお昼を食べようと思って…」
「そうか」
「はい…。兵長が落ち… 飛び下りてきたので忘れちゃってました」
マヤは座るのにちょうどよい石でもないかと探してみるが見当たらない。
その様子に気づいたリヴァイは、さっと白いハンカチを取り出して敷く。
「これを使え」
「えっ、あっ すみません。でも大丈夫です。自分のがありますから」
慌てて麻ひものショルダーバッグから白地に青の水玉模様のハンカチを出した。かがんでリヴァイのハンカチをつまみ上げると、綺麗にたたんで差し出す。
「ありがとうございました」
「………」
リヴァイは眉間の皺を深くしながらも、黙ってハンカチを受け取った。
マヤは自分の水玉模様のハンカチを敷いてから、今の状況に気づいた。
……どうしよう…。これ…、このままここに座って私、パンを食べるの? 兵長は…?
「あの…、兵長はどうされますか?」
と訊きながら、どうされるも何もないよねと泣きそうな気持ちになったが、そうとしか訊けなかった。
「………」
リヴァイはまたしても何も答えなかったが、手に持っていた自分の白いハンカチを水玉模様のハンカチのそばに敷くとその上に座った。
「座れよ」
……え?
てっきり帰ると思った兵長が、ハンカチを並べて敷いて腰を下ろしたかと思ったら、こちらを見上げて座れと言う。
マヤは驚いてすぐには声が出なかったが、やっと事態をのみこむと慌てて返事をした。
「……はい!」