第21章 約束
「そうです」
マヤも上空を見上げれば、まだ警戒を解いていない鳶が旋回をつづけている。
地上の二人に注目された鳶は、再びピーッと警告の鳴き声を発した。
すーっと息を吸いこみ、マヤは叫ぶ。
「ごめんね! この人は大丈夫だから!」
鳴くことをやめて鳶は、しばらく近い上空を旋回していたが、ふいに高度を上げて飛び去った。
「ふふ、またね」
小さくなっていく鳶を見送りながら微笑むマヤの耳に、低い声が飛びこんできた。
「……鳥が好きなのか?」
「あ、はい」
鳶から隣に立つリヴァイに顔を向けて答える。
「鳥も… 馬も…、犬も猫も。動物はみんな大好きです」
「そうか」
「はい」
それ以上会話はつづかず、マヤが “兵長は動物はお好きですか?” と訊こうとしたとき。
「……昔」
その声は揺らいでいる、かすかに。
「お前みたいに… 動物が好きでたまらないやつがいた」
「……そうですか…」
「そいつも… 鳥や馬にいつも話しかけていて…」
そこまで話して黙ってしまったリヴァイの顔からは、何も読み取れない。
“昔” や “いた” と、過去形なのが気にかかる。マヤは努めて明るい声を出した。
「私と一緒ですね。その人は… 兵長のお友達ですか?」
「……仲間だった。かけがえのない…」
……“だった”。また過去形…。
その言葉の選択と苦しそうな表情から、確実にその人が今はいないことを知る。
「その人と… 友達になりたかったな…」
気づけば心の声が出てしまっていた。
「私… その人と仲良くなれたでしょうか…?」
「……あぁ」
たったひとことだったが、苦しそうだった顔がほんの少しやわらいでいる気がした。