第21章 約束
突如、目の前に現れた黒い影。
何かの野生動物かと思いきや、それは人間で。それもリヴァイ兵長だなんて。
「兵長! あの… これは一体どういう状況ですか…?」
その問いに答えることもなく、どことなくばつが悪そうに斜め下の地面を見ている。
「……あっ! すみません。あの子がピーピー驚かせたから、木から落ちちゃったんですね…」
「落ちてねぇ」
「えっ、でも…」
マヤはリヴァイが落ちてきた樫の木を見上げた。枝と葉が無数にある。
……きっと木登りしていたんだわ… というかそうに違いないんだけれど… どうして?
マヤは訊かずにはいられなかった。
「……どうして木に登ってたんですか?」
また答えてくれなかったらどうしようかと少し心配になったが、今度は答えてくれた。
「ここには時々来て、遠くを見ている」
「……そうですか…」
なんだかよくわかったような、わからないような理由だが、兵長にだって日常を忘れてぼーっとしたいときもあるのではないかとマヤは思った。
「すみません。せっかく休まれていたところを、私とあの子のせいで落ちてしまって…」
「落ちてねぇ」
その声には先ほどより、わずかに不機嫌な色が濃い。
“いやでも、どう見ても落ちてきましたよ?” とマヤが言おうとする前に。
「……飛び下りたんだ」
「……そうですか…。あの…、どっちにしても私とあの子が騒いだせいですよね…。すみません…」
落ちたにせよ飛び下りたにせよ、木の上で休んでいた兵長を邪魔したことには変わりない。
マヤはそう思って謝った。
うつむいているマヤをしばらくじっと眺めていたリヴァイは、すっと上空に視線を投げた。
「“あの子” とは、あの鳥のことか?」