第17章 壁外調査
「やぁ、お帰り!」
ナナバは帰したのだろう。ハンジが一人で椅子に座っていた。
「ナナバと私が責任を持ってマヤを綺麗にしといたから」
リヴァイは何も言わずにマヤのかたわらへ。一つしかない椅子をリヴァイに譲るために立ち上がったハンジは、努めて明るい声を出した。
「心配しなくても効果が薄れないように、ちゃーんと元どおりにしといたから!」
「………?」
怪訝そうな顔をするリヴァイの肩をぽんと叩きながらハンジは笑う。
「お茶目なところがあったんだねぇ、リヴァイにも! 大丈夫、その想いはきっと通じるよ!」
心底嫌そうに叩かれた肩を払う。
「さっきから訳のわからねぇことを言いやがって。一体なんのことだ」
「いいからいいから! 誰にも言わないから安心してくれていい」
「は?」
まさかハンジがクラバットを恋のまじないと信じているだなんて思いもよらず、全く話が噛み合わない。
「じゃあまた、ちょくちょく様子を見にくるから」
そう言いながら出ていこうとするハンジに慌てて声をかけた。
「エルヴィンに捕獲の一件を報告しろ」
「わかった」
ハンジは振り返りもせず、肩まで上げた手をひらひらとさせて出ていった。
ばたん。
扉が閉まる音が、眠るマヤと二人だけになった部屋にやけに大きく響いた。
閉めた窓からは、もう日が落ちたことを示す黄昏がやわらかく光る。
しかしそろそろその黄昏も、闇夜に消されゆくだろう。
壁にかけられているランプに火を灯す。たちまち薄暗かった室内は金色の光にぼんやりと包まれた。
ベッドのかたわらに置かれた小さな背もたれのない椅子に、リヴァイは静かに腰を下ろした。