第17章 壁外調査
しばらくは、本部になっているその部屋の誰も口を利かなかった。
だがリヴァイが階上に消えてから数分のち、くちびるを噛んでいたハンジがエルヴィンに食ってかかった。
「どうしてだよ、エルヴィン!」
「何がだ」
「こんなの今までなかった…。こんな前例はなかったじゃないか。一兵士を幹部の部屋で休ませるなんてことは…!」
「ならたった今、前例はできた」
真顔で言うエルヴィンに、ハンジは食らいつく。
「私だって別に闇雲に反対したい訳じゃない。ただ意義がないなら、壁外において個人の私的な感情を持ちこむのは賛成できかねるね!」
個人の私的な感情という言葉に複雑そうな表情を見せたエルヴィンだったが、それは本当に一瞬のことで、気づいた者はいなかった。
「ハンジ…。君の巨人の生け捕りにまつわる数々の暴走は、私的な感情ではないのか?」
「あれは…!」
ぐっとハンジはこぶしを握る。
「私は別に巨人と遊びたい訳じゃない。巨人を知って弱点のひとつでも掴めたら…。それが人類の勝利につながるから!」
部屋の隅に立っているモブリットが小さくうなずいている。
「では同じだ。人類の勝利のためにも戦力の損失は避けなければならない」
「……戦力の損失?」
「あぁ そうだ」
「そりゃマヤはもちろん優秀で大切な兵士のひとりで、戦力だけどさ…」
「違う、そうではない。リヴァイだ」
「リヴァイ?」
エルヴィンの言葉にハンジは素っ頓狂な声を出し、先ほどからずっと黙って聞いていたミケはフンと鼻を鳴らした。
「リヴァイの士気が低下すれば、それはそのまま調査兵団の戦力の損失であり、ハンジ… 君の言う “人類の勝利” が確実に遠ざかるだろうな」