第16章 前夜は月夜の図書室で
部屋を出て隣のペトラの部屋の前で立ち止まる。中に人のいる気配はない。
……やっぱり夜遅くに帰ってくるみたいね。二人とも楽しんでるかな…?
今頃たくさんの荷物を持たされてペトラのあとをよろよろ歩いているオルオの姿を思い描いて、マヤは微笑んだ。
そのまま食堂へ歩く。
どことなく違和感に襲われる。
誰にも会わない、すれ違わない。
いよいよ傾いた夕陽は廊下に届かず、薄暮の中庭には誰もいない。肌を掠める風が思ったよりも冷たく、まるで今この兵団敷地にひとりぼっちのような感覚に思わず身震いした。
自身の体を両腕で抱きしめるようにしながら廊下を進み、とうとう食堂の前までやってきた。
扉に手をかけるが、開けるのをためらう。
もし食堂にも誰もいなかったら。なんだか怖い。
この変な孤独感は何? 壁外調査への不安がおかしな気持ちにさせているの?
そんな弱気な自分を振り払うかのように首を大きく左右に振ると、思い切って扉を開けた。その途端に目の前に広がったのは、明るい灯りに照らされ、がやがやと談笑しながら食事をしている兵士たちのいつもの光景。
「……はぁ…」
やたら安心して声が漏れ出た。
ただのいつもどおりの食堂なのに、灯りが、人の気配が… ほっとする。
食事を受け取り、空いている隅の席につく。
いただきますと手を合わせると、通常より少し豪勢なメニューに嬉しくなった。それは壁外調査前夜ならではの恒例のメニュー。
自由の翼をイメージして皿に描くように、炙った薄い二枚の肉がクロスして盛りつけてある。
……明日、自由の翼に恥じないように立派に務められますように…。
そう念じながら、肉を口に運んだ。