第16章 前夜は月夜の図書室で
「へ? そうなのか?」
あご鬚に手をやりながら、不思議そうな声を出すエルド。
「……そうですよ」
……エルドさんはハンサムでモテるだろうけど、いくら壁外調査の前だからって普通そうそう告白とかないから。
内心そう思いながら、マヤはつづけた。
「大体告白してるところなんて遠くから見かけたことしかなくって、今日みたいに間近で見たの初めてですから」
「そうなのか。俺、兵長をそばで見てるから感覚おかしいのかもな」
急に出てきたリヴァイ兵長に、マヤはびくっとなる。
「……リヴァイ兵長ですか…?」
「あぁ。俺が新兵のころとかそりゃすごかったからな。歩けばコクられてる兵長に出くわすって感じでな」
「そうなんですか…」
「あれ? 見たことないのか?」
「一度や二度ある気もするけど遠かったし、誰かなんて気にしてなかったので…」
「なるほどな。ま、確かに最近は以前ほどでもないしな。そもそも兵長を見かけなくなったような…」
そう言いながらエルドは考えていた。
……ここ一年くらいは確かに、壁外調査前日に兵長が誰かにコクられてる光景をほとんど見なくなってるよな…。
兵長自体を見かけないというか…。
何故? 偶然だろうか?
「エルドさん!」
エルドの思考をマヤの声が遮った。
「ん?」
「あ、あの… 今気づいたんですけど…」
マヤの声は少し震え、膝の上でぎゅっと手を握りしめている。
「この状況…、これ、私がエルドさんに告白してるみたいじゃないですか?」
「は?」
「だってほら、あの人たち…」
マヤがちらっと見た方向に目をやると、新兵が数人かたまってこちらを見ていた。