第31章 身は限りあり、恋は尽きせず
泉よりも少し小高くなっている斜面の木陰の岩から見下ろす、美しい場所。
「兵長が行き止まりだって言ったときはどうしようかと思ったけど、こんな素敵なところで休憩できて良かった」
「思いがけねぇ幸運だったな」
「そうですね。ペトラのおじいさんだったら “棚からぼた餅” とでも言うのかしら」
「なんだ、それは?」
「ペトラのおじいさんはことわざが大好きで、このあいだお会いしたときも、会話の半分以上がことわざだったの」
「ハッ、それは多すぎだろ」
本当なのか?といった顔をしているリヴァイに、マヤは少々むきになって言い返した。
「本当ですって。同じ意味のことわざを何個も使うんですよ?」
「へぇ…」
組んだ足の上に片ひじをついて、リヴァイは口角を上げている。
「おじいさんがここにいたらきっと、棚からぼた餅以外にも何か言ってるはず!」
「……たとえば?」
訊くリヴァイの声はからかうような色を帯びていて。
「えっと棚ぼた…、あっ、一緒ですね…。えっと…」
似た意味の言葉がとっさに浮かばず、マヤの声の勢いも小さくなる。
「もっけの幸い… とかじゃねぇか? ことわざじゃないかもしれねぇが」
「兵長、すごいです! もっけの幸いかぁ…」
マヤは目を輝かせて感嘆していたが、ふっと思う。
……“もっけ” ってなんだろう?
「ねぇ兵長、もっけってなんですか?」
「知るか」
「兵長も知らないんですか…」
残念そうなマヤに、リヴァイは。
「ペトラのじいさんに教えてもらえ」
「そうですね! そうします。ふふ、ペトラのおうちに行く楽しみがひとつ増えたわ」
嬉しそうなマヤの笑顔が輝いていて、リヴァイは思わず目を細めた。
手を伸ばせば、その白い頬にふれることができる距離。
笑顔に魅入られて、自然と右手が伸びてしまう。
「……兵長?」
前ぶれもなくリヴァイに頬を撫でられて、マヤは戸惑う。
「どうしたんですか?」
「……まぶしい」
「えっ? あぁ、そうですね。ここは泉の水面がキラキラしてるから…」
「そうじゃねぇ」
低い声が響き、頬にふれている白く細い指先から熱が伝わる。
……俺にとってまぶしいのはいつだってマヤ、お前だから。