第31章 身は限りあり、恋は尽きせず
泉のほとりには白く小さな花が咲き誇り、風に揺れている。
目の前に広がる夢の世界のような美しい光景に、マヤは息をするのも忘れて見入っていたが、やっと喉から出た声は掠れていた。
「……兵長…」
オリオンからおりたリヴァイもマヤ同様に、この美しい場所に心を奪われている。
「まさかこんな場所があるなんてな…」
「ええ…、本当にそうだわ…」
マヤはアルテミスからおりると、引き寄せられるように水辺に近づく。
膝をつき水面を覗きこむと、大きな琥珀色の目で見つめ返す可憐な少女の姿が映し出された。
「あ…」
マヤが鏡のように自身を映す水面に目を奪われていると、肩越しに漆黒の髪のリヴァイの顔が現れた。
水面に映るリヴァイの顔が揺れながらささやく。
「マヤ…」
「兵長…」
水面を通して見つめ合う二人。
この世に二人だけのような不思議な感覚にとらわれて、目を離すことができない。
どれほどの時が流れたのか、マヤは急に恥ずかしくなってきて目を逸らした。
「この水は飲めるのかしら…?」
照れ隠しもあって、泉にそっと両手を浸す。
清らかに澄んで冷たい碧い水を、マヤは手のひらですくい口に含んだ。
「美味しい!」
いつの間にかマヤの背後から隣に移ってきたリヴァイも、水をすくう。
「冷てぇ」
「ここで休憩しませんか?」
「あぁ、そうだな」
二人の会話を理解しているかのように馬たちは互いに歩み寄り、泉の水を美味しそうに飲み始めた。
「オリオンとアルテミスも泉の水を気に入ったみたい…。あっ、あそこに座りましょうよ」
泉から少し離れた場所に立つ木の下に、腰を掛けるのにちょうどよい岩があった。
「……本当に綺麗なところ…」
座った岩の頭上には、時折吹く風に揺れる木の葉の音が流れている。そよそよと奏でるその調べに身を預けて眺めるのは、美しい泉のほとりに寄り添って立つ二頭の愛馬。やわらかそうな緑の草を食んで、泉の水を飲んで、見つめ合っては鼻先をくっつけて愛情を確かめている。
そこはまさに楽園のような場所だった。