第31章 身は限りあり、恋は尽きせず
「……道は合っているんですか?」
先ほどから名湯イカホに向かっているとは思えない、じめじめとした日陰の獣道に対して疑念のあったマヤは、まず一番にリヴァイが道を間違えたのではないかと考えた。
「あぁ。途中で曲がるところも間違ってねぇはずだが」
「兵長はイカホには来たことがあるの?」
「いや、初めてだ。シムズの気に入りの温泉で、ぜひ行けとすすめられた」
「シムズ…、あぁ! ユトピアの駐屯兵団の隊長さん」
全周遠征訓練で立ち寄ったユトピア区の地区長であり駐屯兵団隊長のシムズは、強引にリヴァイとサシで飲むことに漕ぎつけた。そして酒場ではずっと、ユトピア区および近隣の地域がいかに素晴らしいかを熱く語った。なかでも名湯イカホへの情熱はすさまじく、それを延々と聞かされたミケ曰く “素直な” リヴァイは、マヤを連れていきたいと思った次第。
「この道…、行き止まりじゃないかも」
マヤは来た獣道を馬上から振り返った。
「こんな急にシダの壁が立ちはだかるなんて地形的に変じゃないですか?」
「そうだな…」
リヴァイは同意して、
「行ってみるか。オリオン…!」
リヴァイの呼びかけに応じて、ゆっくりとシダに向けて前進する大きな漆黒の青毛の馬オリオン。
その鼻先がシダをそっと押したかと思うと、そのままグッと分け入りシダの奥へ消えた。
「おい、入れるぞ。マヤも来い」
「はい…!」
マヤは慌ててアルテミスをうながす。
「アルテミス、行って」
アルテミスはシダに鼻先を当てたところで一瞬立ち止まったが、ブルッと鼻を鳴らすと歩みを進めた。
「うわぁ…」
壁のように見えていたシダの群生は、心地良く頬を撫でる緑のカーテンだった。
マヤがさわさわとシダの奏でる耳に心地良い音を聴きながら、森のカーテンを抜けると突然視界がひらけた。
そこには小さな泉とそのほとりに立つオリオンとリヴァイが、静かにマヤを待っている。
泉の上にはぽっかりと丸く青い空が顔をのぞかせ、そこから降りそそぐまぶしいまでの白い陽光が水面を照り返すことによって、泉のほとり一面は白銀の輝きで満ちていた。
泉の透きとおった碧い水面は、こんこんと湧き上がる澄んだ水で絶え間なく揺らいでいる。
青く映えるたたずまいは凜として美しい。