第31章 身は限りあり、恋は尽きせず
「あまり親しくしてなかったけど、一度だけ…」
ペンを走らせる手が止まる。
「まだ新兵のころに食堂で一緒に夕食を。たまたま居合わせて…」
リヴァイに言うというよりは、まるで独り言のようにラキアとの想い出をつむぐマヤのくちびるは青ざめている。
リヴァイもその白く骨ばった手を止めて、執務机の向こうのマヤをじっと見守った。
リヴァイは知っているのだ。
こんなときはどんな言葉よりも、ただあふれでる想いを受け止めることが救いになると。
「スープが…、毎日のように出てくるじゃがいものスープが一番好きだって言っていました…。変ですよね、お肉よりも好きだって言って笑うんですよ?」
「……そうだな」
「お肉はもちろん美味しいけれど、どんなごちそうよりも調査兵団の食堂のお芋のスープがいいって。壁外調査から帰ってきてスープを飲むと、生きてる感じがするって…」
マヤの声は涙の色に染まっていく。
「そう言っていたのに…」
「………」
リヴァイは何も言わずにその切れ長の目に憂いの色を宿していたが。
「ラキアはどこの出身だ?」
その声で、うつむいているだけの状態から抜け出せずにいたマヤが動く。
手元の書類に目を通して、とある村の名前を口にする。
「ガジーム村… 。ユトピア区とカラネス区のあいだ…、少しカラネス区寄りですね。全周遠征訓練で近くを通過しているわ」
「そうか。他には…? 家族は?」
「ご両親と弟さん。小さなことでもコツコツと努力すると東方訓練兵団の履歴書には記してあります」
「確かにラキアは目立たねぇが、人の見ていねぇところでも手を抜くような真似をしねぇやつだったな…」
「はい…」
ラキアの書類に目を通し、それを声に出して語ることで、マヤは涙に溺れそうになる前に落ち着きを取り戻した。