第31章 身は限りあり、恋は尽きせず
「だよな。あぁ… 今から思えば、全周遠征訓練の方が楽だったのかも。ヘパイストスに乗ってぽっくらぽっくら」
「おいおい、ぽっくらぽっくらなんて優雅な騎乗じゃなかっただろうが」
のん気なグンタの言いぐさに、エルドが顔をしかめた。
「そうですよね、初日から兵長が飛ばして移動距離半端なかったし」
ペトラも会話に加わった。
「野宿もあるし、虫は襲ってくるし、朝は早いしな…。結構きつかったよな、全周遠征訓練…」
エルドがしみじみと語るが、それでもグンタとオルオは譲らなかった。
「だがな、地獄の基礎鍛錬はもっときついから!」
「そうっすよね」
「オルオ、気が合うな。よし、今日は一緒に風呂に行くぞ!」
「了解っす」
「あ~、久しぶりの広い風呂! 楽しみだな」
風呂好きのグンタから誘われて、オルオも嬉しそうにしている。
その様子をそっとペトラはうかがって。
そしてそのペトラをエルドは妙な顔つきで見守っていた。
……ペトラ?
まさかペトラのオルオに対する心境に少なからず変化が起こっていることを知らないエルドは、首をかしげるしかなかった。
全周遠征訓練が無事に終了してから、調査兵団の秋は静かに暮れていった。
調査兵たちは巨人の撲滅による人類の自由を信じて厳しい訓練にいそしみ、バルネフェルト公爵家からの寄付金のもとに壁外調査をおこなった。
マヤは平常時は訓練とミケの執務を補佐し、時間外にリヴァイの執務室で執務を手伝い夕食をともにするいつもどおりの毎日。そして調整日にはリヴァイとヘルネでデートをすることが多くなった。デートといっても買い物を少しして、紅茶専門店カサブランカでお茶をしたり、夕陽の丘で鳶と語らっては沈む太陽を肩を寄せ合って眺めたり。そんななんでもない二人の時間が積み重ねられていくことが、マヤにとって一番の幸せだと噛みしめる日々がひと月もふた月も過ぎたころ。
リヴァイの執務室で、壁外調査の殉職者の名簿の作成に取り組んでいる。
「ラキアさん…」
つい先だって11月におこなわれた壁外調査で巨人に馬ごと踏みつぶされたラキアという名の調査兵のページを作っているマヤの声が、執務室に小さく漏れた。