第29章 カモミールの庭で
「デイブ? 一体あいつになんの用だ…?」
ルチアの言っている意味がわからないジョージの声は、すこぶる怪訝そうだ。
「口止めに決まっているでしょう! デイブさんほどのおしゃべりはいないんだから」
「あっ…」
「店は閉まっていたから家をたずねたけど…。カメリアが言うには酒場に飛んでいったそうよ。もう今ごろクロルバ中の人が “マヤが男を連れて帰ってきた” と知っているわ」
「……大丈夫なんじゃないか? デイブの言うことは、みんな話半分しか聞いてないさ」
「そうだといいけど…」
「それにそれ…、合ってるじゃないか」
「え?」
「結局…、兵士長とマヤはつきあっているんだから」
「そうだけど…。でもデイブさんの広め方によっては、とんでもない話に飛躍しそうで心配だわ」
「そのときは俺たちで正していけばいいさ!」
勢いよくジョージは、ティーポットとカップにためた湯を流す。
さぁこれで、最高に美味しい紅茶を淹れる準備が整った。
温まったポットに自身のオリジナルブレンドの茶葉をたっぷり入れると、細心の注意を払ってぐらぐらと沸いている熱湯を注いでふたをする。
そしてポットに素早くかぶせたティーコゼーは、ひまわりの花を散りばめたデザインのパッチワークキルトでできていた。
「あのティーコゼー、母の手作りです」
嬉しそうにマヤがささやいた。
「うまいもんだな。リビングに飾ってあったタペストリーもだろ?」
「そうです。あれは超大作」
リビングの壁に飾られていたタペストリーは、幅1メートル、高さ1.5メートルの大きなサイズだ。
「柄がいい」
リヴァイはタペストリーを思い浮かべて、ひとことで褒めた。
「私も大好きです。やっぱりティーカップのデザインは可愛いですよね」
マヤの声は弾む。
「部屋に入って一番に目に飛びこんできた。カップひとつひとつから紅茶の香りが漂ってきそうだ」
そう、リビングのタペストリーの絵柄はティーカップなのだ。
「まぁ兵士長、ありがとうございます!」
自身の手作りのパッチワークキルトを褒めてもらって、ルチアは大喜びだ。