第29章 カモミールの庭で
「座りましょうか」
丸いテーブルで向かい合うリヴァイとマヤ。
言葉少なに見つめ合っている二人をカウンターの奥からちらりと見て、ジョージは声を張り上げた。
「兵士長、お好みは?」
「……そうだな。ウィンディッシュさんのオリジナルを」
「……嬉しいね。一番飲んでもらいたいのはやっぱりブレンドだから、それも…」
ジョージは意味ありげに言葉を止めた。
すぐにリヴァイが呼応する。
「ストレートで」
「さすが紅茶通だ。よしっ!」
ティーポットとカップを用意しているジョージの手は弾んでいる。
「ふふ、年甲斐もなく張り切ってます」
マヤはリヴァイにこっそり言ったつもりだったが、ジョージは耳ざとく聞きつけた。
「マヤ! 聞こえてるぞ。年甲斐もなくなんて言うけどな、父さんと兵士長は11歳しか違わないんだからな」
「……11歳も違うじゃない」
「11歳しか、だ!」
「無理しなくていいのよ、お父さん」
「なんだと!」
リヴァイはマヤが父親と楽しそうにやり合っているのを目の当たりにして、微笑ましく思った。
……こんなマヤが見れるなんてな…。
どちらかといえば調査兵団の101期生のなかでも、いや兵団全体で考えても、大人しくて優等生だ。
仲の良いペトラやオルオとは楽しそうに冗談を言い合ったりしているが、先輩兵士にはきちんとした態度を崩さない。
それがやはり家族の前だと、いつもとは違うマヤが見れる。
「兵士長とつきあってから不良になったんじゃないか」
「何よ、それ」
ぷうっと頬をふくらませているマヤ。
……可愛い…。
レアな姿を見ることができて、リヴァイは表情には一切出さなかったが内心ではかなり満足していた。
兵団ではなかなか見れないマヤの姿を、もっと見たい。
そう思ってジョージとマヤのやり取りを全く興味のないふりをして、その実ものすごく期待していると。
カランカラン!
アーチ型の扉が勢いよくひらいて、ベルが鳴る。
「ルチア、どこに行ってたんだ?」
沸騰した湯を、まずは温めるためにポットやカップに注ぎながらジョージは訊く。
「デイブさんのところよ。でも一足遅かったわ」