第29章 カモミールの庭で
顔を上げたリヴァイとがっつり視線がぶつかったジョージは、腹に決めた。
「青天の霹靂だったから、また見苦しいところをお見せした。俺だってルチアと同じで、マヤが幸せならそれでいいんだ。見たところ…」
ジョージの視線は大切な一人娘にそそがれる。
「マヤの幸せに間違いはなさそうだ。そうだろ?」
マヤは瞳いっぱいに涙を浮かべて、大きくうなずく。
その顔がいつの間にか気づかないうちに、大人の女性になったんだなとジョージの胸にこみ上げてくる熱いものがある。
「リヴァイ兵士長、マヤをよろしく頼みます」
「マヤは必ず俺が守る」
「……ありがとう」
リヴァイとジョージとのあいだに流れる空気は、もう驚愕や戸惑いや不信感、そして険悪といったマイナスなものではなくなった。
「リヴァイ兵士長、お近づきのしるしに俺の淹れた紅茶を飲んでもらえないか?」
「……喜んで」
「お父さん、兵長は紅茶通なのよ。上手に淹れてね」
「父さんの腕を信用してないのか。紅茶通かなんだか知らないが、ぎゃふんと言わせてやる」
古めかしい言い回しをする父親が、マヤは恥ずかしい。
「兵長はぎゃふんなんか言わないわ…」
「そうね、こんなにスマートな兵士長が言ったら私もびっくりするわ。ぎゃふんなんか言うのはあなたくらいよ、ジョージ」
ルチアにまで突っこまれて、ジョージは顔を赤くして反論した。
「馬鹿、俺が言うとかじゃない。物のたとえ、言葉のあやみたいなもんじゃないか。本当にぎゃふんなんて言うやつがいるのなら連れてこい」
「そうだな、俺も見てみてぇ」
思いがけず同調してくれたリヴァイに、ジョージは初めて心からの笑みを見せた。
「あはは、そうだよな兵士長。……紅茶通なら俺と気が合うかもしれない。まずは一杯、とにかく飲んでいただこうか」
ジョージは立ち上がった。
「せっかくだからリヴァイ兵士長には店の方に来てもらおうと思うが…」
「そうね、それがいいわ」
ルチアの賛同も得て、ジョージはリヴァイを紅茶屋の店舗の方へ案内した。
「どうぞ、こちらへ」