第29章 カモミールの庭で
「兵長の言うとおり年齢は関係ないわ。騙されてもいないし、私は私の意志で兵長とつきあってるの。お父さんにそんな風に言われたくないわ」
「なんだと…!」
ジョージは思わず立ち上がろうとしたが、それを制したのはルチアだった。
「あなた、落ち着いて」
「これが落ち着いていられるか! ルチア、お前は平気なのか?」
「私は…」
ルチアは正面のソファにならんで腰をかけているリヴァイとマヤの方を見ながら答える。
「マヤの気持ちが大事です。マヤに心から大切だと想える人ができたのだったら、それはとても嬉しいことだわ。そしてその相手の人もマヤを想ってくれるのなら、こんなに幸せなことは他にないはずよ」
母ルチアの応援してくれるような言葉が嬉しくて、マヤは涙ぐみそうになってくる。
「マヤ、そうでしょう? リヴァイ兵士長と出逢えて、想い合って、おつきあいして…。幸せなのよね?」
「うん」
本当はもっと、たくさんの言葉を返したかった。“そうなのお母さん、私は兵長と出逢えて幸せなの” “わかってくれてありがとう”と。
だが今は感激で胸がいっぱいで、こくこくとうなずくのが精一杯だ。
「ほら、見てごらんなさいよ、マヤの幸せそうな顔を」
「いやしかしお前、いきなり帰ってきて10も年上の上司の男と交際しているなんて言われても…」
「じゃあなんですか、いきなりでなく前もって帰ると手紙を出していたら良かったの? リヴァイ兵士長が同い年の一般兵士なら許せたの?」
ルチアの声が尖ってくる。
「いやそうじゃなくて、俺はただマヤが騙されてるんじゃないかと…」
「騙されてないとマヤが言ってるじゃないですか。自分の娘の言うことが信じられないの、あなたは!」
「………」
ルチアに怒鳴られて、またもやジョージは叱られた子犬のように元気をなくした。
「ウィンディッシュさん」
リヴァイが静かに切り出した。
「俺は確かに10も年上の上司だが、マヤを騙しちゃいねぇし、幸せにすることしか考えていねぇ。信じてくれと言うしか俺にはできねぇが…」
「リヴァイ兵士長…」
目の前でリヴァイが頭を下げている。
今度はジョージが言う番だ。
「謝ってもらいたい訳じゃない。顔を上げてください」