第29章 カモミールの庭で
「はぁ、それはありがとうございます…? えっ?」
ジョージは同じく少しずつリヴァイの言葉の意味を理解し始めたルチアと顔を見合わせて。
「えっ? それって?」
二人は息ぴったりのタイミングで、リヴァイの方を振り向いた。
「「リヴァイ兵士長。それは一体どういう…?」」
「あぁ、俺たちはつきあっている」
静かで揺るぎのないリヴァイの低い声が、凜と響いた。
………!
はっきりと言いきったリヴァイの言葉に、マヤは衝撃に近い感覚を受けた。
交際していることを伝えるとわかっていたが、どういう言葉なのかは聞いてみるまでわからない。
“大切に想っている” の気恥ずかしくなるような嬉しい言葉。そしてこんなにもはっきりと “つきあっている” と断言するとは思っていなかったので、胸を撃ち抜かれたような衝撃。
最初は両親に気を遣ってか “ですます” の丁寧語をところどころに使っていたのに、いつの間にかそうではなくなっている。
……きっと素の兵長のまま自分の言葉で想いを、そして私たちのことを伝えてくれようとしたんだわ。
その気持ちが嬉しくて、マヤが頬を染めていたまさにそのとき、マヤの両親は。
「……つきあっている?」
「まさか? 本当に…?」
ジョージとルチアはにわかには信じられないといった顔で、リヴァイとマヤを交互に見ている。
「マヤ、今リヴァイ兵士長が言ったことは本当か!」
その剣幕にひるみそうになるが、マヤはぐっと父親を見つめ返した。
……兵長はまっすぐに想いを言葉にしてくれたんだもの。私だって。
「本当です。私たちは… つきあっています」
「……なんだって? そんな、そんなことがあるか? 彼は上司なんだろう? 失礼だがリヴァイ兵士長、年齢は…?」
「27だが」
途端にジョージの顔がさらに険しくなる。
「……27? マヤより10も上じゃないか」
「年は関係ねぇ」
「いや、あるだろう。マヤ!」
ジョージはマヤに対して厳しく追及するつもりらしい、声が怒りで震えている。
「10も年上の男なんだぞ? 騙されてるんじゃないか?」
「いいえ」
マヤの声もかすかに震えている。それは静かな怒り。