第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
幹部それぞれの反応を順に見まわして、エルヴィンは話を締めた。
「鳥が巨人を避ける理由は追い追いハンジとマヤが究めるとして…。その理由が今はわからなくとも、鳥の行動は充分に我々の壁外調査の手助けになるだろう。これからは上空の鳥を観察するよう皆に意識づけたい。もし鳥のちょっとした動きで巨人の接近に目視より先に気づけるならば、戦略も立てやすい。一瞬の判断が大きく事態を変える場合も多々あるからな。そしてゆくゆくはハンジの言うように、鳥を我々の意のままに同行させることができれば尚いい。タゾロ、マヤ、報告は検討に十二分に値する。ご苦労だった」
「「はっ!」」
エルヴィン団長から認められ、タゾロとマヤは身が引き締まる思いがした。直立不動で敬礼し、失礼しますと退室しようとした矢先、ミケが声をかけた。
「マヤ、見張り遅れるなよ」
「了解です」
すぐにハンジが反応した。
「あぁ! 今日の見張りは第一分隊だったね。そうか、マヤは夜警か」
「はい」
「大変だけどミケと組むなら気が楽だね。どんな異変も鼻で気づくだろうから。なんならミケ一人でいいんじゃない? マヤは寝ててもいいよ」
「えっ…」
見張りをしなくてもいいと言うハンジの意見にマヤが困っていると、ミケが。
「俺の鼻を万能視するのはやめないか。そんな確かなものでもないからな」
「そうだぞ、ハンジ。夜番は大変だが重要な任務だ。誰であっても決して疎かにすることがあってはならない」
エルヴィンも厳しい声で注意する。
「やだなぁ、二人ともそんな怖い顔をして! わかってるよ。辛い夜の見張りをしなくちゃいけないマヤの気持ちをちょっとでも軽くしようと思っての冗談じゃないか」
「ハッ、どうだか…」
リヴァイの冷ややかな声にも全く動じずにハンジは、マヤに笑顔を向けた。
「マヤ、ミケが鼻が利くからってサボっちゃ駄目だよ! 夜のお勤め、しっかり頼んだよ!」
「はい…!」
ハンジの盛大な見送りを背に部屋をあとにしたタゾロとマヤは、一階への階段を下りながら笑い合った。