第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
「マヤの発見が役に立ちそうで良かったな!」
「タゾロさんが報告しようと言ってくれたおかげです。ありがとうございます。少しでも兵団のためになるなら嬉しい…!」
「俺も嬉しい。飛んでいた鳥がさぁっと別方向に飛び去った途端に奇行種が現れたときは、マジで鳥肌が立ったからな」
タゾロは今また鳥肌が立ったかのように両腕をさすってみせてから話をつづける。
「あとはマヤは見張りだな。眠いだろうけど頑張れよ。……もう寝るか?」
「……そうですね。寝ようかな? いくら分隊長が鼻利きさんでも、しっかりと見張らないと駄目ですからね!」
今度はマヤが自身の両腕で力こぶを作ってみせた。
「おっ、言うじゃないか。あははは」
「ふふ」
二人は一階の部屋の前に到着した。
部屋の中には第一班だけではなく第二班の調査兵も休憩している。深夜の見張りに備えて仮眠を取っている者もいるので、できるだけ音を立てないように、タゾロはそうっと扉を開けた。
やはり室内は先ほど部屋を出てきたときよりも明かりが少なく、薄暗い。
マヤは速やかに仮眠の準備を始めた。
「んん…」
壁外調査の夜は誰しも眠りが浅い。
夜警の任務がない者でも壁外という場所で、慣れない宿営地で、ろくな寝床もないなかで高いびきをかくつわものは、そうそういないに違いない。
ましてやマヤは夜番。
うつらうつらしては目が覚め… を繰り返して当番の時間近くになった。
まわりの者を起こさないように気をつけて部屋を出る。
持ち場は東の屋上。時刻は午前3時の少し前。
屋上に出ると、背の高い人影が見えた。
「分隊長…!」
「あぁ来たか」
そのまま何も言わずに屋上の東へ歩くミケの背中についていく。
石造りの城をおぼろげに照らす夏の夜の月が、二人の影を揺らしていた。