第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
「どうした、二人揃って?」
よく見れば手に雑草を持っているミケが、自身の直属の部下に声をかけた。
タゾロは少し考えてから、こう切り出した。
「ミケさん、報告したいことがあるのですが、お時間いただけますか?」
「なんだ、この場では言えないのか?」
「いえ、そうではないですが…。邪魔をしては悪いと思いまして…」
ちらりと机の上の雑草に視線を投げた。
「あぁ、これ?」
唐突にハンジが会話に入ってきた。
「可愛い花だろ? 南の庭園跡に群生していてね。名前は…」
ラドクリフにつづきを説明させようと、ハンジはわざと言いよどむ。ハンジの読みどおりに、ラドクリフは嬉々としてハンジのあとを引き継いだ。
「これはヒメフウロって名の薬草だ。このピンクの花は愛らしいが結構な匂いがしてな…」
今度はラドクリフがミケを見る。
「あぁ、そうだな。これは…」
ミケは手の中のヒメフウロをスンスンと嗅ぎ、ラドクリフの希望どおりに匂いを説明した。
「どこか焦げ臭いような、だが香ばしくもあり…。塩を焼いたような匂いがする」
「さすがミケ!」
ラドクリフは期待したとおりの言葉をミケが口にしたので、手を打ち喜ぶ。
「ヒメフウロはシオヤキソウとも呼ばれているんだ。この可愛いピンクの花、風変わりな香り。そしてもっとも重要なことは葉に止血作用があることだ。だから庭園跡に生えているのを見つけたユージーンが、全部を抜いて薬にしてしまいたいと申し出てきたんだ、なぁ?」
ラドクリフは可愛い自分の分隊所属の部下に微笑みかける。
「はい。兵舎の付近では見かけないので…、今日の夕方にここの庭園跡で見つけたときには嬉しかったです。一本二本なら勝手に抜くのですが、結構な量になるし勝手に採るのも気が引けて…。だから許可をもらいに来ました!」
「エルヴィン、私からも頼むよ。薬になる草やキノコは自然からの贈り物だよ? 使わない手はない」
ハンジが口添えする。
「確かに薬になる草や “キノコ” は、非常に有益な自然からのギフトに違いないな」
エルヴィンは意味ありげにハンジの言葉を引用して、にやりと笑った。