第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
……もう、ヘングストさんったら…。
ヘングストとのやり取りを思い出しながら兵舎へ向かう。
「わしはマヤと兵長がそうなるとわかっておったがのぅ。それぞれの愛馬を深く知れば、その主の恋の行方を知ることなんぞ朝飯前じゃ!」
そう得意そうに声を張り上げて、ヘングストはふぉっふぉっふぉと高笑いした。
「いやしかしマヤ、知っておるか? 兵長が血相を変えてお前を捜していたことを。ここにも来てのぅ、それはそれは…」
そのときのリヴァイの慌てぶりを思い出している様子だ。
「あとから聞けばその日にマヤを射止めたそうじゃないか。愛されておるのぅ…」
「いえ、そんな…」
「照れんでもええ。あんな男は滅多におらん。なにしろあのオリオンを…、わし以外は近づくことすらできんかったオリオンの心を一瞬で掴んだからのぅ。そしてマヤ、お前もじゃ。オリオンが心を許しておる。その二人が… と考えれば、まぐわうべくしてまぐわったということじゃのぅ。こんな素晴らしい出逢いはまたとないわい。しっかりと手綱を握って、決して手放してはいかんぞ」
「……はい」
「めでたいのぅ! 長いあいだ生きてきたが、こんな嬉しいことはないわい!」
まるで自分のことのように喜んでくれたヘングストの皺くちゃの笑顔が胸に温かくしみる。
その想いを抱いて兵舎に戻ってきたマヤは、とりあえずは自室に帰った。
……どうしようかな? 夕食の時間まではまだあるし、今ならきっと。
心が決まると手早く準備をして、大浴場へ向かった。
まだ日は高いが今なら空いていて、ゆっくりと心身ともに整えることができるはず。
そう思って入った大浴場には案の定、人は少なかった。
だが先に入浴していた人物は想定外だった。