第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
そしてリヴァイ兵長だけではない。
マヤ自身は全く気づいていないが、マヤも告白の対象に少なからずなっていたのだ。
それは幼馴染みのマリウスが亡くなったから。
前回は訓練兵時代からの同期であるザックだけが、その想いを伝えようと奮闘。見事リヴァイに粉砕されてしまった。
当時はマリウスが散ってからまだ間もなく、遠慮と様子見といったところがあった。少しずつ時が経って、密かにマヤに想いを寄せている数人の兵士たちは、そのうち機会があれば…。もっとも良い機会は壁外調査の前日などと考えていたところへ、マヤとリヴァイの交際の事実を突きつけられて、その淡い想いは表に出されることはなく泡のように消えてしまった。
このことも、壁外調査の前日の恒例行事である “想い人への告白” で最大限に盛り上がるはずなのに、どこか意気消沈してしまって残念な様子の顔がここかしこに見受けられる原因だった。
こうして一部の者にとっては、想いの行き場のない一日になりそうだったが、その他大勢の者にとってはやはり、個人個人のいつもの行動に身をゆだねた。
ペトラはオルオを荷物持ちに駆り出してヘルネへ。きっと、いや必ずオルオの両手いっぱいに持ちきれないほどの買い物をするに違いない。ぶーぶーと文句を言いながらも嬉しそうにペトラの言いなりになっているオルオの様子が目に浮かぶ。
ナナバは筋トレ、タゾロはランニング、ゲルガーは飲酒。
ニファは本屋。本人曰く、いつまで経っても “恋と嘘の成れの果て” の続編が発売されないので、他の恋愛小説を物色するのだそうだ。
マヤはというと、リヴァイがトロスト区へ出かけているため、手持無沙汰でいる。
……せっかく兵長とおつきあいできたんだし、一緒にいたかったんだけどなぁ…。
でも仕方がない。
リヴァイはエルヴィンに命じられて、明日の壁外調査の詳細な計画表を駐屯兵団に提出しに行っているのだ。
時間が空きさえすればアルテミスの顔を見に行くマヤは厩舎に顔を出した。
翌日の壁外調査に備えて、愛馬に話しかけマッサージをする。
居合わせた馬丁のヘングストに散々リヴァイとの交際を誉めそやされ、厩舎をあとにした。