第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
ビャクタケ語りで興奮して息を切らしているハンジに、リヴァイは冷ややかな視線を投げた。
「そのビャクタケが、なぜ “希望” なんだ。食うのか?」
ハンジのビャクタケの解説では味覚はふれられていなかったが、幻のキノコだからとんでもなく美味なのかもしれない。
……となると、充分に食堂で使う料理の材料になる。
野生で生えているキノコだから費用はゼロ、貧乏な調査兵団の食の事情には明るい話題だ。
「違うよ! ビャクタケは食用キノコじゃない。秘薬の材料なんだ」
「………」
嫌な予感がして、リヴァイは黙っている。
「食べたりしたら大変だよ、失神で済めばいいけど、多分逝っちゃうだろうね。ビャクタケは真っ白いから白茸なんだけど、実はもう一つ媚薬茸(ビヤクタケ) からなまって、ビヤクタケビヤクタケビヤクタケ… ビャクタケになったという説もあるくらいなんだ。媚薬の材料だからほんのわずかな量でも効果があるのに、丸ごと食べたりしたらイって泡吹いて飛ぶんじゃないかな?」
……秘薬と聞いて嫌な予感しかしなかったが、やはりそっち系かよ…。
「おまけに媚薬でビャクタケとかふざけてんのか」
心の声が知らずと外に出てしまっている。
「そうなんだよ、リヴァイ! 実にチャーミングなネーミングだよねぇ? 気に入ってくれたみたいで私も嬉しいよ」
「別に気に入っちゃいねぇが…」
「そこでだ!」
何がそこでだなのか全然理解できないが、ハンジの上機嫌な声はつづく。
「王都の材料屋で目玉が飛び出るような値段で売っているビャクタケが、立体機動訓練の森に自生していることがわかった。どんどん採って媚薬成分を抽出してムフフ薬を大量生産する。そしてそれを王都の貴族や裕福な商人たちに売りつけて大儲けするのさ!」
「ほぅ…。それが希望という訳か」
「あぁ、そうだよ。誰かさんがレイモンド卿の恋路を邪魔したからね。レイモンド卿はできた人物だから失恋しても寄付してくれてるけど、もしマヤと結婚していたら札束を便所紙にしてもいいくらいにもっともっと寄付してくれただろうね。誰かさんのせいで減額されている寄付金の分をなんとしてでも稼がないと」
からかうような瞳で、ハンジはリヴァイを見つめている。