第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
「お前ら、いい加減にしろ。もったいつけてねぇで早く要点を話せ」
「あぁ、すまないね。ついついリヴァイの存在が忘却の彼方へ行ってしまう。なぜだろうか? リヴァイが椅子に座っているからなのか。どう思う、モブリット?」
あたかもリヴァイが座っていると小さくてその存在を忘れてしまうとでも言いたい様子のハンジに、さすがのモブリットも焦って気を遣った。
「……分隊長、そろそろ兵長にきちんと話をした方が…」
「そうかい? まぁそれもそうか。いつまでもこんなところで油を売っている暇は我々にはないからね」
とことん失礼なハンジの言葉にリヴァイのこめかみには青すじが浮き上がりそうになっている。
「どこまで話したっけ?」
勝手に自分で話を脱線しておきながら、ハンジはあろうことかリヴァイに訊く。
リヴァイは怒鳴りつけたい気持ちをかろうじて抑えた。
「新兵が落下した場所でお前らが “希望” を見つけたところまでだ…」
「そうだったね! 落ちたフォルンを助けに行ったら、そこは一面びっしりと下草が生えて鬱蒼としていた。上を見れば重なり合う枝葉で陽もほとんど届かない陰気な雰囲気だったよ。フォルンは幸い怪我もなく、立ち去ろうとしたときに生い茂る雑草の一部が白く光っているのに気がついたんだ。あれ? と思って近づいてみると…」
そのときの感情がよみがえったのか、はたから見ていて面白いくらいにハンジの顔が輝いた。
「鬱蒼と茂る下草の葉陰にビャクタケが密生していたんだ!」
「……ビャクタケ?」
「そう、ビャクタケ! 幻のキノコさ!」
「キノコか…。ビャクタケ…、聞いたことねぇな」
「知らなくて当然だよ。なんてったって幻だからね、そんじょそこらでは売っていない。キノコの王者マツタケを彷彿とさせる雄々しくて猛々しい、もっともキノコらしいフォルム。香りは夜に深く甘く香る夜の女王との異名を持つ月下香(げっかこう) の花の香りにも似て。そして何よりそのあまりにも神々しい真っ白な姿から白茸(ビャクタケ) と呼ばれているんだ!」
今にも涙を滝のように流す勢いで、ハンジはビャクタケを熱く語った。