第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
「これを出しに来ました」
モブリットが差し出したのは、一枚の書類。
受け取ったリヴァイが思わずつぶやく。
「……立体機動装置の使用許可申請書か」
……チッと舌打ちしたい気分だ。
この立体機動装置の使用許可申請書だけは本当に、数多くある意味のねぇくだらない書類のなかでも一番馬鹿馬鹿しいといえるしろものだ。
「分隊長も兵長と同じく、申請書は今や形骸化して全く意味のなさないものだとよく言っていますよ」
「別に俺は何も言っていないが…」
「……そうでしたね」
……でも顔に出ていました、と言えるはずもないか… 兵長に。
モブリットは思う。
この人も随分とわかりやすくなった。馴染みのない者にはきっと相変わらずの無表情のしかめ面で、何を考えているかわからないのであろうが、何年もともに戦っているとよくわかる。
……この人がどんなに仲間想いで、熱いものを胸に秘めているか。
そしてその感情が近しい者には手に取るように伝わってくるときがあると。
「明日の早朝…、ハンジとモブリット…」
手にした申請書に目を通しながら、リヴァイは首をかしげた。
「お前らが朝っぱらから自主訓練だと? 何を企んでいる…」
「企むだなんて人聞きの悪い。俺たちだって初心を忘れずにいようと飛ぶ日もあります」
「寝言は寝てから言え。俺が兵士長の職に就いてからこのかた一度も飛んだことのねぇお前らが、今さら立体機動の自主訓練だなんて信じられるか」
「はぁ…、分隊長の予想どおりですか…」
ため息をついてみせるモブリット。
「おい、クソメガネが何を企み、何を言ったか洗いざらい吐け」
「兵長、恐れ入りますが俺は分隊長の指示がないかぎり何も言えません。申請書は渡しました。受理の方をよろしくお願いします。では失礼します!」
モブリットはリヴァイに口を挟む暇を与えず一気にまくし立てると、素早く敬礼をしてきびすを返した。
「おい」
リヴァイの声にも振り向かずに扉に手をかける。
「おい、待て!」
「待てません、失礼します!」
モブリットが出ていこうとしたそのとき、扉が勢いよくひらいた。
「モブリット、仮にもリヴァイは上司だよ? 待てと言われたら待たないとね!」
「分隊長!」
姿を現したハンジを見て、モブリットは忠犬のごとく声を弾ませた。