第27章 翔ぶ
ちょうどそのとき、扉がノックされセバスチャンが紅茶を運んできた。
「紅茶をお持ちいたしました」
給仕を始めた彼に、レイがすねた声をぶつける。
「セバスチャン、坊ちゃまはよせと言っているだろうが…」
ティーポットから紅茶を注ごうとしていたセバスチャンは一瞬手を止めた。
「坊ちゃまのお申しつけでレイモンド様とお呼びしておりますが、私の心の中ではいつでも坊ちゃまでございます」
「おい!」
レイは顔を赤らめて怒り、二人のやり取りを聞いていたリヴァイは、にやりと口の端を上げた。
涼しい顔で給仕を終えたセバスチャンが退室する前に、リヴァイにあらためて。
「リヴァイ様、先日は楽しゅうございました」
「あぁ」
「こうして坊ちゃまを訪ねてくださって…。感激の極みでございます」
深く頭を下げて出ていったセバスチャン。
坊ちゃまを連呼されて不機嫌な様子のレイに、リヴァイがぽつりとつぶやいた。
「大事にされているんだな、坊ちゃまはよ…」
その声にはもう、からかうような雰囲気はなかった。素直に二人の関係を肯定するような、どこかうらやましく思っているような、そんな優しい声色だった。
「……セバスチャンはオレが生まれたときからの世話係だったんだ」
「……そうか」
リヴァイとレイは、そのあとしばらく黙ってセバスチャンの淹れた紅茶を飲んだ。
カチャリ。
ティーカップをソーサーに置く音が響くのは何度目だろう?
ついにレイが口をひらいた。
「……兵士長。そろそろ用件を言えよ」
「あぁ、そうだな…」
リヴァイも独特の掴み方で持っていたティーカップをカチャリとソーサーに置いた。
「まぁ聞かなくても、大体の見当はついてるがな」
レイはその翡翠色の瞳を正面からリヴァイに据えた。
「……マヤだろう?」
「………」
すぐには返答をせず、リヴァイも青灰色の瞳でじっと見つめ返す。
「さしずめオレとマヤの結婚を邪魔しにきたんだろうが、そうはいかねぇ…。っていうかよ、邪魔も何もオレはマヤを王都に連れて帰ってみせる」
レイの決意に満ちた言葉は、つい今しがたまでセバスチャンの坊ちゃま呼びで部屋に流れていた、ほのぼのとした空気を吹き飛ばすのには充分であった。