第27章 翔ぶ
さすがトロスト区で一番の宿。
待合室の装飾はまるで王都の屋敷のように豪華で立派なものだった。
飾り棚に鎮座している透かし彫りの美しい黄金の香炉をリヴァイが眺めていると。
コンコンと扉がノックされて、セバスチャンが顔を見せた。
「お待たせいたしました、リヴァイ様。大変恐れ入りますが、レイモンド様のお部屋までご足労いただきたく存じます」
「あぁ、わかった」
バルネフェルト公爵家の執事長のセバスチャンの案内で、ゆっくりと階段をのぼる。最上階に位置するレイの部屋まで、コツコツと響く二人分の足音。大した距離でもないのに、リヴァイにはやたら長く感じられた。
ようやく到着した部屋はワンフロアに一室だけの贅沢なものだった。
階段をのぼってすぐに正面にそびえる扉を、セバスチャンがノックをすることもなくひらいた。そのような振る舞いは執事の鑑らしくないとリヴァイが疑問に思っていると。
すぐに謎は解けた。
扉を通り過ぎても誰もいない小部屋があるのみだった。そこを通り抜けると、また扉が。ノックをせずにどんどん扉をあけて進んでいく。
……一体いくつ小部屋があるんだ。
いい加減うんざりしたところで、つとセバスチャンが立ち止まる。
「……こちらでございます、リヴァイ様」
適度な音量の声でささやくと、セバスチャンは扉を丁重にノックして、声を張り上げた。
「レイモンド様、リヴァイ様がいらっしゃいました」
「あぁ、入れ」
レイの声を聞くなり “失礼いたします” とセバスチャンは扉をひらく。そしてリヴァイに頭を下げた。
「リヴァイ様、私はここで失礼いたします。お飲み物をお持ちいたしますが、何になさいますか?」
「……紅茶をたのむ」
「かしこまりました」
セバスチャンは再度うやうやしくお辞儀をしたのちに下がった。
「リヴァイ兵士長。何しに来たと言いてぇところだが、とりあえずは歓迎しよう。まぁ、座ってくれ」
通された部屋はかなり広くて、贅を尽くした造りになっていた。
ゴブラン織りの厚手でふかふかの絨毯が敷き詰められ、居並ぶ家具はすべてフリッツ王家御用達のデッペンチールの手がけたものだ。
本棚に飾り棚、小物用のキャビネットに書き物机。
そして明るい窓際に置かれたソファに部屋の借主は座って両手を広げていた。
盛大な歓迎の意を示しているらしい。