第27章 翔ぶ
怒りで猛っているペトラの声とは対照的に、マヤの声は静かだ。
「うん、そうだね。でも、もう好き勝手言うのも終わるだろうから…」
「あっ…」
……そうだ、マヤはレイさんにプロポーズされたんだった。
ということは、マヤの任務が終わるということ。
もう新兵の女子グループも、いい加減な噂話で盛り上がることもないだろう。
それならば事を荒立てたくないマヤの気持ちを尊重したい。
だからペトラは、これ以上はもうこの話題にふれるのはやめようと思った。
「……お風呂、空いてたらいいね。急ごう!」
……部屋に帰るまで話したくないと言ってたもんね。
ペトラとマヤはレイに関係する話題には一切ふれずに大浴場へ行き、風呂に入った。
こういうときに便利なのがオルオだ。
ペトラはひたすらオルオがああしたこうした、馬鹿じゃないのと面白おかしく大仰に話して、マヤを笑わせた。
……良かった、マヤ… 楽しそうにしてる!
心の内で安心しているペトラと同じように、マヤも嬉しく思っていた。
……ペトラ、ありがとう。お部屋に帰ったら、ちゃんと話すね。
幸い大浴場には先輩兵士が数人いただけだった。噂話をされることもなく、話しかけられることもなく平穏に入浴は終わった。
「なんなの、この花束は!」
早く話がしたくて大浴場の帰りに自室に寄らずに、マヤと一緒にマヤの部屋に帰ってきたペトラは開口一番叫んだ。
ベッドに置かれている特大の白薔薇の花束。
「あの子たちが言ってたの、これか…」
「あはは…、そうなの」
「薔薇の花束は断ろうって言ってたのに…!」
「そうなんだけどね…。断るような状況じゃなくなっちゃって」
「もう、仕方ないなぁ! で、これ… どうすんの? 飾るところないじゃん。また持って帰ろうか?」
マヤは少し元気のない花を指さして。
「これが最初にもらった薔薇なんだけど捨てて、この花瓶に飾ろうかと思ってるんだけど」
「え~、もったいなくない? まだまだいけそう」
「そうなんだけど、置く場所がないから」
「じゃあさ、ポプリにしない? ドライフラワーにしてからポプリにしたらいいよ。ほら、レイさんのところに泊まったとき、いい香りだったじゃない?」