第27章 翔ぶ
マヤもレイのお屋敷の薔薇の花のポプリの香りを思い出して、軽く微笑んだ。
「あぁ、そうだね。ポプリにしたらもらってくれる? 私は紅茶のポプリを使ってるんだけど、そこに薔薇のポプリを入れたら香り同士がぶつかっちゃいそうで…」
「そうだね、クローゼットに違う香りは喧嘩しちゃうよね。私はポプリを使ってないし、もらおうかな。他にも欲しい人にあげてもいいし」
ペトラはむんずと花束を掴んだ。
「私の部屋に吊るすね。ついでに荷物も置いてくるわ」
「うん、ありがとう。紅茶淹れておこうか?」
「あぁぁ…、いやいい。風呂上りにはカーッと一杯冷たい水がいいかな」
「あはっ、ペトラったらおじさんみたい!」
「あはは」
笑ってペトラは花束を抱えて部屋に戻り、マヤは二人分の水を汲みにいった。
「ぷは~!」
ペトラがマヤの部屋に帰ってきた。向かいのベッドに腰を下ろすなり用意されていたコップの水をごくごくと飲み干した。
「さてと、聞く準備はOKだよ」
マヤも半分ほどの水を飲んでから。
「えっとね、今日は訓練の時間になってもレイさんが来なくて…」
マヤは訓練の時間の話から始めた。思い出せる限りの見たこと聞いたことをそのまま伝える。
いつものトロスト区ではなく、ヘルネへ。紅茶専門店 “カサブランカ” へ行ったこと。
リックの昔話の部分は避けて、そしてプロポーズをされたこと。
すでに団長が承諾していると聞かされて、訳がわからなくて帰りの馬車の中で呆然としたまま花束を受け取ったこと。馬車が白薔薇で埋め尽くされていたこと。
「……そっか。それは花束を突き返すようなムードじゃないね」
「うん…。でね」
団長室でのやり取りを、ありのまま伝えていく。
レイの出した数々の条件を羅列していった直後のこと。
「何よそれ!」
ぶるぶると、ペトラの肩が震えている。
「団長、見損なったわ!」
順番に話しているため、プロポーズの返事を考えるにあたって、本当の本当にエルヴィン団長の承諾した条件は考慮しなくて良いという部分まで来ていない。
「いや… あのね、ペトラ」
だが頭に血がのぼったペトラには、マヤの声が届かない。
「信じられない、マヤを売るなんて! ゲジゲジ眉毛のくせに!!!」