第27章 翔ぶ
「レイモンド卿とどうなっているのかとか、最近すっかり見かけないリヴァイとはどうなっているのかとか、訊きたいことが山ほどあったんだけど…、また今度でいい。マヤの体調が最優先だからね。食欲のないときに無理に詰めこむ必要はない。残してもう休んだ方がいいね」
「……わかりました」
ハンジの提案で、ペトラとマヤは席を立つことになった。
食堂を出る直前に大声が追いかけてきた。
「元気になったら、さっきの…! さっきの全部教えるんだよ~!」
「了解で~す!」
マヤの代わりにペトラが叫び返した。
律儀にお辞儀をしているマヤの手を引っ張って、食堂を出るペトラ。
「さぁ、さっさとお風呂に行っちゃおう! 入れるよね? 大丈夫?」
「大丈夫。お風呂に入ってサッパリしたいな…」
「OK、行こう!」
ペトラの元気な掛け声とともに、大浴場への道へ踏み出す。道の半分ほどを行ったところで、女子たちのキャアキャアと騒がしい声が聞こえてきた。どうやら大浴場から兵舎の方へ帰ってくる新兵たちのようだ。
「……あたし、さっき見たんだけどさ。マヤさん、ものすごく大きな花束持ってたよ!」
「え~、そうなんだ。毎日毎日すごいよね」
「マヤさんって結局どうなの? 白薔薇王子とつきあってんの?」
「さぁね~。でもつきあってもないのにプレゼントは受け取らないんじゃない?」
「ってかさ、白薔薇王子と毎日出歩いてるのってなんなの? 一日二日くらいなら接待なんだろうけど、ずっとなんておかしくない? あんなイケメンと遊べるならあたしだってやってみたい! マヤさんばっかずるくない?」
彼女たちの会話が耳に入ったマヤは青ざめ、ペトラは怒りで顔を赤くした。
「ちょっとなんなの、あの子たち…!」
もう5メートルほどですれ違う距離だ。
今にも飛びかかって怒鳴りつけそうなペトラの腕を、マヤは慌てて押さえた。
「ペトラ、いいから」
「何言ってんのよ!」
ペトラの声で新兵たちは気づいたようだ。
「「「お、お疲れ様です…」」」
目も合わせず小声で挨拶をつぶやくと、逃げるように行ってしまった。
「ちょっといいの? ああいう好き勝手なこと言ってる子には、ガツンと注意した方がいいって!」