第27章 翔ぶ
マヤからの反応はない。
あるのは状況をのみこめない人がおちいる完全に混乱した顔。
「だから全部のことをマヤなりに考えたうえでの返事が欲しい」
「……わかりました」
反射的につぶやいた答え。
マヤの心は虚ろで完全に今、ここにない。
それがひしひしと伝わってくるからこそ、レイの気持ちも。
……ったく情けねぇ。
本来ならば、団長なんかに根回しせずに正々堂々とマヤにぶつかって、笑顔でOKをもらうのが一番なんだ。
それがどうだ。
裏工作するような真似をして、マヤからは笑顔が消え混乱しか与えていないこの状況。
理想とは程遠いプロポーズ。
……それでも、最終的にマヤが手に入るならば。
なんだっていい、かっこ悪ぃがこれでいいんだ。
「……団長にも話を聞きたいので、それから考えます」
「あぁ、そうしてくれ」
そこでやっと、レイとマヤは目が合う。
「すまなかったな、スコーンを食べてくれ」
黙ってうなずくとマヤは皿の上の半分にカットされたスコーンに手をつける。
それを見てレイも残っていた紅茶を飲み干した。
会話が生まれる気配はなく、二人にとって重苦しい時間がのろのろと過ぎていく。
スコーンを無表情で食べ終えたマヤは紅茶をひとくち飲む。
そして何かを思いついた様子で急に顔を上げると、そのままレイを正面から見据えて切り出した。
「ひとつ気になったことがあります」
「なんだ?」
「先ほどのリックさんの話では、貴族と庶民の恋愛や結婚に未来はないということでしたよね…? 私とレイさんでは身分が違いすぎますけど…」
「あぁ、そうだな…。王都では身分の差を口やかましく言う貴族が大多数を占めるのは事実だ。だがオレは気にしねぇし、文句は言わせねぇ」