第27章 翔ぶ
食堂をあとにしたマヤは、ゆっくりと自分のペースで洗濯と部屋の掃除をおこなった。
「うん、これにて完了!」
ぴかぴかに磨き上げた自身の部屋を見渡して、満足そうにマヤはつぶやいた。
朝のまどろみを満喫して、時間に追われることなく好きなことをして。
部屋が綺麗になると、気持ちにも余裕が生まれる。
自然と笑顔になっているマヤだが、少し困ったような表情にもなる。
「……それにしても多すぎるわ。もう、もらわないようにしないと…」
その視線の先には白い薔薇、薔薇、薔薇。
毎日毎日帰り際に渡される、薔薇の花束。
もうとっくに花瓶も、花瓶代わりになりそうなコップもなくなって、窓から吊るしている始末。
花が好きなマヤにとっては、高価なドレスやアクセサリーより嬉しい贈り物ではあるのだが、それもこうも多いと困ってしまう。
贈られる花が多すぎるなんて贅沢な悩みだと自身を戒めるように首を振ると、昼食に行こうと部屋を出た… ところで誰かとぶつかりそうになる。
「ペトラ!」
見ればサンドイッチを山積みにした皿を手にしている。
「マヤ、お昼今からでしょ?」
「うん」
「だと思って、持ってきちゃった! 一緒に食べよう!」
上機嫌でそう叫ぶと、勝手にマヤの部屋に入った。
「悪いけど紅茶を淹れてくれる…って! 何、この薔薇の花!」
部屋を占拠している白薔薇に驚愕するペトラ。
「レイさんからもらった…」
「もらいすぎだって!」
「……だよね」
「どう見たって邪魔になっちゃってるじゃん。そうだ、私が何本かもらってあげようか? あっ、人のプレゼントを横取りしちゃ駄目か」
「ううん、ペトラならレイさんもよく知ってるんだし、別にいいと思う。もらってくれると嬉しい。ちょっとさすがに多すぎるから…。レイさんには明日会ったときに、ペトラにおすそわけしたってちゃんと言うよ」
「それがいいね。じゃあ早速…」
ペトラはサンドイッチの皿を机に置くと、隣の自室から花瓶とコップを取ってきた。
そのあいだにマヤは言われたとおりに紅茶を淹れにいく。
給湯室から戻ったころには、薔薇の花を自室に運び終えたペトラがベッドに座って待っていた。両手にサンドイッチを持って。