第27章 翔ぶ
「やっぱりそうかい!」
マーゴの顔が、ぱあっと明るくなる。
「いやね、マヤはリヴァイ兵長のはずだっただろう? うちのジムだって兵長なら仕方がないと泣く泣く諦めたんだよ。それなのに王都の貴族だか、薔薇の香りがする王子だか知らないけどさ、そんなマヤをかっさらうような真似はこのあたしが許さないよと思ってね!」
「あはは…」
鼻息荒く、まくし立ててくるマーゴの勢いに苦笑いをするしかないマヤ。
「その貴族のせいかい?」
「はい?」
マーゴの質問の意味がわからなくて、訊き返す。
「兵長と一緒に来なくなっちまったじゃないか、ここに」
マーゴは親指をぐいっと立てたかと思うと、真下に向けて食堂の床を何度も指さした。
「あぁ…、それは…」
マーゴの質問に答えようとしたマヤは、ずきんと胸が疼いて言葉をつなげられなくなってしまった。
レイと過ごさなければならない任務。
そのせいで、リヴァイ兵長と過ごす時間がなくなったと考えたいところなのだが、実際にはそうではない。
レイがこの兵舎にやってくる前から、執務を手伝わなくていいと距離を置かれた。
執務を手伝わないということは、その流れで一緒に行っていた夜の食堂にも行かなくなったということ。
……レイさんのせいではないわ…。
でも、そんなことをマーゴに正直に伝えるのは苦しい。
マヤは声が出せなくなってしまった。
青ざめてうつむいてしまったマヤに、マーゴは全く悪気はないのだが、持ち前のパワフルさを前面に押し出してぐいぐいと訊いてくる。
「黙ってちゃわからないよ。兵長と何かあったのかい?」
「………」
答えなくてはと焦れば焦るほど、何も言えなくなってしまう。
そんなマヤを救う声が、マーゴの背後から聞こえてきた。
「ここに座っていいかな?」
「ペトラ!」
朝食のトレイを置いて、マヤの向かいの席に座ったペトラはにやりと笑った。
「何なに? マーゴさんとなんの話をしているの?」