第27章 翔ぶ
そんな料理長の心を知っているのだろうか、レイは笑う。
本人は友好的ににこりと笑ったつもりなのだが、今から何を言われるかと内心どきどきの料理長には、不敵な笑みに見えてならない。
冷や汗が噴き出しそうになっている料理長の耳に聞こえてきたレイの声は、すこぶる機嫌の良いものだった。
「美味かったよ。特にメインのトリュフソースは彼女が気に入ってな…」
レイはにやにやしながら、くいとあごでマヤを指し示した。
料理長はマヤの方に顔を向けると深々と頭を下げた。
「お嬢様のお気に召したようで、ありがたき幸せの極致でございまっする!」
極度の緊張が言葉遣いさえもおかしくさせる。
頭を下げられたマヤは、このような場合にどうすればいいか知らなかったが、とりあえずは同じように頭を下げた。
「どのお料理も美味しかったです…!」
「ありがとうございまっする!」
「いえ…!」
ぺこりぺこりと互いに頭を下げて、料理長のコック帽など落ちてしまわないかと冷や冷やものだ。
そのやり取りに終止符を打ったのはレイだった。
「なぁ、料理長」
「はっ!」
直立不動になる料理長。
「この紅茶なんだが、なんてぇ銘柄だ?」
再び優雅なカーブを描いているティーカップを、ひょいと目の高さまで持ち上げた。
「それは “ゴールデン・トワール” でございまっする!」
マヤが口にしたとおりの茶葉の名前が出てきて、レイはにんまりと笑った。
「ほぅ…、やはりな。王家御用達の “デブナム・リドリー” の?」
「わぁぁぁ! さすがバルネフェルト公爵家次期当主であらせられるレイモンド様! 茶葉をお当てになったばかりかデブナム・リドリーまで! やはり王都の大貴族様は格が違いまっする! おみそれいたしましたでございまっする!」
飛び上がらんばかりに大仰に驚いてレイを誉めそやす料理長だったが、次のレイの言葉に心底驚愕してあごが外れそうになってしまった。
「いや、オレじゃねぇ。マヤがすべて当てたんだ」
まるで自身の手柄のように得意気にして、マヤの方を見やるレイ。
「このお嬢様がですか…!?」