第27章 翔ぶ
「そうか…。それで…?」
エルヴィンのなんの感情もこもっていない声にマヤは戸惑いながらも、まずは下げていた頭を上げた。
そうしてからエルヴィンの顔をまっすぐに見る。
「はい、それで…」
今の段階でどこまで話せばいいのか、プロポーズを拒絶したことを話すべきなのか… 少々判断に迷いが生じたが、いずれすべてを報告しなければならないのだ。
マヤは一気に話すことにした。
「思いがけもしない急な話で驚きました。そして… お断りしました。昨日レイモンド卿が突然来られたのは、そのせいだと思います」
「なるほど…。それで…?」
「………」
プロポーズを断ったからレイが来訪した… というところまでを伝えれば、そのあとは団長がなにかしらの意見を出してくれるものと考えていたマヤは当てが外れ、困惑する。
……それで?
昨夜にペトラと話していた “任務の最終目標” まで話さないといけないのかな…?
「それでですね…。舞踏会に出席したのが任務であるように、ここに来られたレイモンド卿の望むままに、一緒に街に出るのも任務です…」
ちらりとエルヴィンの顔をうかがえば、マヤを凝視しているその碧い瞳からは何も読み取れない。
このまま話しつづけていいのか自信を無くしたマヤを勇気づけたのは、正面の執務机のエルヴィンではなく、側面の本棚の前で腕を組んで立っているミケだった。
エルヴィンの無表情に恐れをなしてミケに助けを求めるように顔を向ければ、そこで待っていたのは優しい… まるでマヤのすべてを肯定してくれるかのような温かな瞳。
目と目が合った瞬間にミケがそれとはわからない程度に軽くうなずいて。
マヤは話のつづきを口にすることができた。
「任務である以上、成果を得なければなりません」
「そうだね」
無表情で黙って聞いていたエルヴィンが急に同意してきて、マヤは緊張して変な言葉遣いになってしまう。
「……であるからしまして、今回の任務の完遂における成果が…」
話していて変な言葉遣い以上に、何を言っているのかわからない状況におちいってしまった。
マヤは一旦言葉を止めて、ごくりと唾をのみこんだ。