第27章 翔ぶ
「この時間に君が来るのはめずらしいね」
明くる日の朝。
マヤは昨夜決めたとおりに少し早起きをして、食堂で朝食を精一杯努力してスピーディーにかきこむと、団長室へ急いだ。まだ午前の訓練開始の8時半までには、30分近くある。
……よしっ。
ノックする前に気合を入れる。
ひと呼吸置いて入室したマヤに “めずらしい” と声をかけたエルヴィン。
「おはようございます! 朝早くから失礼します…!」
頭を下げながら、マヤは焦る。
……分隊長もいる!
昨晩ペトラと話し合ったとおりに、エルヴィン団長に正直に舞踏会の夜にあったことを打ち明けて、あらためて今回の任務について指示を仰ぎにやってきた。
だがマヤが想定していたのは、団長と一対一の関係であり、ミケがいるとは考えもしなかった。
最初はミケの存在に、このまま話を進めていいものかと迷いが生じた。しかし冷静に状況を判断すると、かえって好都合だと気づく。
ミケは直属の上司。マヤは心から信頼し敬愛もしている。
舞踏会でのプロポーズのことを団長に報告するならば、追ってミケにも報告を上げるのは必至。ならば今ここに二人が顔を揃えていることは、報告が一度で済むという状況。
……分隊長がいて良かった…!
頭を上げたときにはもう、最初に感じた焦りは霧散していた。
「団長、分隊長…。レイさ… レイモンド卿について報告があります…。いえ! 謝罪しなければなりません」
「ほぅ…。なんだね?」
エルヴィンは先をうながしながら、ちらりと本棚の前あたりに立っているミケに意味ありげな視線を送った。
「はい…。実は先日の舞踏会で…」
少し言葉に詰まってしまう。
「レイモンド卿にプ…」
報告すると決めているのに、いざ男性からプロポーズをされたなどと異性の上司に打ち明けることは、マヤが予想していた以上に恥ずかしいものだった。
だが、恥ずかしがっている場合ではない。
「プロポーズをされました。報告が遅れまして申し訳ありませんでした!」
ひと息に謝罪の言葉を述べて、再び頭を下げた。