第27章 翔ぶ
誰がどんな質問をしてくるかと、マヤはドキドキしながら待ったが、しばらくのあいだは誰も何も言わなかった。
とりあえずは夕食の芋の煮物とパンに集中することにしたらしい。
マヤはほっとして自分もパンを食べ始めたが、すぐにその安らかな時間は終わりを告げた。
「なんでレイさんは、わざわざ見学に来たんだ?」
訊いてきたのはオルオ。
「調査兵の任務のことを、もっと知りたいからと言ってたよ」
マヤの答えに、タゾロも加勢してくれた。
「そうそう。確か “王都にいるだけでは調査兵の実態はわからないからやってきた” とも言っていた」
「へぇ…。じゃあさ、訓練を全種類見学したら王都に帰るのか?」
「さぁ… どうかな…。わからない」
レイがいつ王都に帰る予定かは聞かされていないので、答えようがない。
「トロスト区に泊まってるんだよね?」
今度はペトラが訊いてきた。
「うん。しばらく泊まるって聞いた」
「明日も来るんだよね? 毎日来るの?」
「……多分」
「なんか歯切れが悪いわね」
「ごめん、私もよくわからないの。いきなりレイさんが来たと思ったら、しばらく分隊長の執務を休めと命じられて…」
申し訳なさそうなマヤの声は、ペトラの驚いた声にかき消された。
「えっ! しばらく執務を休む? 案内するのは今日だけじゃないの?」
ペトラ以外の皆も、一斉にマヤの顔を見ている。
「明日も午後の訓練の見学に来て、そのあとは案内じゃなくて、一緒に街に行かないと駄目なの…」
「街!?」
ペトラの目がまん丸に見開かれている。
「どういうこと? ナナバさん、知ってました?」
ペトラはナナバに訊く。
「いや、私がハンジさんから聞いたのは、王都から来た貴族の案内係をマヤがしているってことだけだよ」
ナナバの隣でニファも、こくこくとうなずいている。
「ペトラ…。私も何もわかっていないのよ…。明日のことも明日になってみないと」
「それもそうか。じゃあ明日になったら街に行くってのも、どういうことなのかわかるね!」
「うん」
マヤは小さくうなずくと、食べかけになってしまっていたパンを口に運んだ。