第27章 翔ぶ
今ならわかる。
マヤはオレのことを何も知らねぇと言った。
そうだ、オレもマヤのことを何も知らねぇんだ。
ただ直感で… 惚れた勢いだけで突っ走っちまった。だがマヤの日常にふれて、マヤが大切にしている調査兵の任務や仲間への想いを感じて、あらためてオレの気持ちを貫きたい。
そしてマヤにもオレを知ってもらう。
……まっさらからのスタートだ。
そう考えていたから、とりあえず外見だけでも好きでいてくれるなら上々じゃねぇか。
だから嬉しかった。
マヤがどうやら心を許しているらしいヘングストに、自身の容貌を良い風に伝えていたことが。
ヒヒーン! ブルルル、ブルッブルッ!
アルテミスの馬房に行くまでに、マヤとレイを歓迎するかのように左右の馬房の馬たちがいななく。
「みんな、元気だった? 調子はどう? ごはんは美味しかった? ……褒めたのは褒めましたけど、この子たちを褒めるのと同じですからね!」
マヤは馬たちに声をかけながら、まるであたかも “ついで” のように、レイの言葉 “まぁ、なんでもいいさ。爺さんに訊かれてオレの髪と目を褒めてくれたのには違いねぇ” に対して返事をした。
「……は? この子たちと同じとは?」
マヤの言葉の意味がわからず、レイの声は少々間抜けな響きだ。
マヤはぴたりと立ち止まった。
アルテミスの馬房の前だ。
「レイさん、この子が私のアルテミスです。そしてこの子たちと同じというのは、この可愛いつぶらな瞳や…」
マヤは馬房に入り、すり寄ってくるアルテミスのたてがみを撫でながら。
「この美しいたてがみを褒めるのと同じだってことです」