第27章 翔ぶ
出会ってから数秒ですっかり仲良しになったレイモンド卿とハンジのあいだを、エルヴィンが割って入った。
「せっかく盛り上がっているが時間がないんだ、話をさせてくれ。レイモンド卿、彼はラドクリフ… 第三分隊の分隊長だ」
エルヴィンに名指しされ、ラドクリフは全然状況を理解していないながらも人の良さそうな顔をほころばせて頭をぺこりと下げた。
「今日よりしばらく、レイモンド卿が訓練を見学する。予定としてはミケ班の訓練を見てもらうつもりだ。ミケ以外は特に接点もなかろうが、とりあえずは顔合わせということで」
ミケは食堂にリヴァイたちを呼びに行ったくらいなので、あらかじめ知っていたようだ。顔色ひとつ変えない。
ハンジとラドクリフは “了解” と受け止めた。
肯定の空気が流れるなかリヴァイだけが異議を唱えた。
「こんな前ぶれもなく押しかけてきて見学させろとか…、王都ではそれが普通なのか?」
リヴァイの怒気を含んだ低い声が部屋に響いた瞬間に、エルヴィンは静かに口元をゆがめて笑った。
「お言葉だが兵士長…」
すぐさまレイが言い返す。
「なんの前ぶれもなく舞踏会に押しかけてきたのは、どこの誰だったかな…?」
「……チッ」
痛いところをつかれて眉間の皺が深くなる。
「あはは、これはレイモンド卿にまんまと一本取られたね、リヴァイ!」
ハンジの笑い声のあとに、エルヴィンもレイの肩を持った。
「リヴァイ、実は “前ぶれ” はあったんだ」
机の上に無造作に置かれていた一通の封書を持ち上げた。
「……それは?」
「昨日届いた… レイモンド卿からの “前ぶれ” さ」
「昨日? なぜすぐに俺たちに言わない?」
リヴァイのこめかみは苛立ちでぴくぴくと動いた。
「確かに前ぶれはあった。だがこれには “明日使いを遣る” とあったんでね、その使いのあとに招集するつもりだった」
エルヴィンが弁解しているあいだに、リヴァイはその封書を奪うと中を確認する。
そこには無期限でトロスト区の宿を借り上げたこと、訓練の見学その他諸般の事項についてぜひ話し合いたい、とりあえずは明日使いを遣るのでよろしく頼む… といった内容が貴族たらしい丁寧でかつ、まわりくどい文体でしたためられていた。