第27章 翔ぶ
エルヴィンの執務机の上には一通の封書が無造作に置かれている。
「急に呼び立ててすまなかった」
言葉に反して全然申し訳なさそうな雰囲気がないエルヴィンの声。
「いや本当だね! せっかくの昼休みをどうしてくれるんだ! と思っていたけどさ、来客だったとはね。どなたかな?」
ハンジは興味津々の様子で、レイを頭のてっぺんから足の爪先までじろじろと見る。
その一見貴族に対して失礼な態度も、致し方ないであろう。
なにしろレイときたら絹糸のようなサラサラとした白銀色の髪がその美しい顔を覆い、服装はどう見ても既製品ではないオーダーメイドの上質な三つ揃えのスーツ、革靴は汚れひとつない白と… 完璧ないでたちだ。
「彼はレイモンド卿だ、ハンジ」
「……レイモンド…、あぁぁ! マヤの!」
その正体を知ったハンジは、条件反射的に隣に立つリヴァイの顔を覗きこむ。
つい先日マヤ、ペトラ、オルオが舞踏会に出席した。その招待は意図的にリヴァイを排除してあったため、なんとしてでもマヤを見守りたいリヴァイは必死になってエルヴィンに抗議をして、最終的には自身の調整日を利用して王都に行った… その招待主のレイモンド卿だ。
リヴァイは当然彼の顔を知っている。
レイモンド卿が招待を外したこと、リヴァイが舞踏会に押しかけたことなど様々な要素を考えると、いくら顔見知りだとしても仲が良いとは思えない。むしろ犬猿の仲に違いない。
……これは面白いことになりそうだ!
ハンジはワクワクしてきた。
案の定、覗きこんだリヴァイの小さな白い顔は不機嫌極まりないどす黒いオーラで染まっていた。
「レイモンド卿、部下が失礼を。申し訳ない」
エルヴィンがハンジの無礼を詫びると、即座にレイは否定した。
「いや、かまわねぇ。というかマヤのレイモンドとは光栄じゃねぇか」
ハンジに向かってカジュアルに笑みを飛ばしたレイ。
「そうかい? レイモンド卿は貴族にしたら話せる方だね、気に入ったよ!」
「あぁ、オレもだ。よろしくな、ハンジ」
「こちらこそ、よろしく!」