第27章 翔ぶ
久方ぶりに目にしたマヤの愛らしい笑顔に、ミケは嬉しくなる。
だから本当は、ぼうっとしていた原因は “頭の体操” ではないが、マヤの自然な笑顔を引き出した “頭の体操” の話題をつづけることにした。
「あぁ、そうだ。一緒に考えてくれ」
「了解」
マヤは飲んでいた紅茶をテーブルに置いて、真剣に問題に耳を傾ける姿勢を見せた。
「いくぞ」
ミケはちょうどひらいていた “頭の体操” に目を落とす。
“頭の体操” とはミケが毎日読んでいる新聞に掲載されている、息抜きのコーナーだ。
時々こうやって休憩の時間に取り上げては、楽しんでいる。
「貴族の立派な薔薇園がある。そこには赤い薔薇と白い薔薇が合わせて110本咲いている。赤い薔薇は白い薔薇より100本多く咲いている。では、白い薔薇は何本咲いている?」
薄いあご鬚に無意識に手をやりながら、ミケは笑った。
「なんだ、えらく簡単だな。すまない、問題をちゃんと読めば二人で考えるほどの難問ではなかった。さっきはちょっと他のことにも気を取られていてな…」
マヤの笑顔のために、自分がぼんやりしていたのは “頭の体操” を考えていたことにしたミケだったが、いざ一緒に解こうと問題を読めば簡単すぎて話にならない。
「白い薔薇は10本だ。解答欄を見るまでもないな…」
「いえ、ちょっと待ってください」
マヤの真剣な声にミケは少なからず驚いた。
「10本じゃないです」
「は?」
怪訝そうなミケにマヤは、とびきりの笑顔で。
「5本ですよ、分隊長」
「いやだって赤い薔薇と白い薔薇が両方合わせて110本で、赤は白より100本多いのだから、白は10本…」
言いながらミケが “あっ” と気づいた顔をする。
「違うな…。白が10本だと “白より100本多い赤” は110本か。ならば白の10本 + 赤の110本で120本になってしまう」
「そうです。だから白は5本で、赤はそれより100本多い105本、5本 + 105本で110本です!」
楽しそうなマヤの声を聞きながらミケは “頭の体操” の解答欄を確認する。
「正解だ、マヤ。クソッ、簡単だと思ったのに、まんまとやられてしまった」
ミケは悔しそうに新聞を、くしゃくしゃに握りしめた。