第27章 翔ぶ
「ふぅ…。紅茶の香りはやっぱり落ち着きますね」
「……そうだな。マヤの淹れる紅茶はそこらの店よりよっぽど美味い」
「ふふ、そうですか? ありがとうございます」
ミケが褒めるとマヤは嬉しそうに笑う。だがその笑顔は、どこか乾いている。
……リヴァイのせいだ。
ミケは何を考えているのかわからない無愛想なリヴァイの顔を、苦々しく思い浮かべた。
リヴァイがこの執務室での休憩のひとときに、もう執務の手伝いには来なくていいとマヤに告げてから十日ほど経った。暦も8月に入り、夏もいよいよ本番だ。
開け放たれた窓からは、爽やかな夏の風が時折白いカーテンをなびかせている。
リヴァイの執務室に通わなくなったマヤは、最初の数日は無理をして笑っていた。
事情を知っているミケには、その笑顔が痛々しくて見ていられなかった。
マヤは無論、公私混同はしていない。
訓練中には傷ついた心の内など一切匂わすことはなかった。だから事情を知らないタゾロやギータ、ジョニーとダニエルは、マヤとともに訓練で汗を流しながらも全く何も気づいていないだろう。
十日経った今はもう、無理に笑ってはいない。しかしそれは心の傷が癒えたからではなく、現状に慣れてきたからに他ならない。
笑顔が乾いて張りついている。
ミケはマヤの胸の内をおもんぱかるが、エルヴィンほど洞察力のない彼にはさっぱりわからない。
エルヴィンはやはり、その能力がぬきんでている。
リヴァイのマヤに対するひどい態度のことを相談したときも。
「リヴァイが変なんだ。マヤに冷淡で…、あげくの果てには執務の補佐をするなと言い捨てて帰っていったんだが。どういうことかわかるか?」
「おおかた王都で何かあったんだろう」
「王都で?」
「マヤを守るために無理やり調整日を合わせて王都へ行った。そして帰ってきた途端に突き放したんだろう? 原因は王都しか考えられない」
何かの書類に署名をし終えたエルヴィンは、万年筆のキャップをくるくると回しながら閉めると、ミケの顔を見上げてニヤリと笑った。