第26章 翡翠の誘惑
「あっ、違います!」
……やだ!
何を言ってるんだろう、私。
いくらリヴァイ兵長以外の男性に興味なんかない、好きにもならない。もし万が一、ジムさんや誰かに交際を申しこまれるようなことがあっても、迷うことなんかない。
だって私の気持ちは決まっているんだもの。
……リヴァイ兵長が好き。
兵長以外の誰にだって、心を許す気にはなれないもの。おつきあいをするとしたら兵長だけ。どこかに一緒に行くのも、おしゃべりをして笑い合うのも、美味しい食事で満たされるのも、すべて兵長と一緒にしていくこと。
それがまごうことなき本心だけれど “私の気持ちは決まっている” などと直接的に言ってしまえば、まるで目の前の兵長に “好きです” と告白したみたいで、途轍もなく恥ずかしい。
だからとっさに “違う” と否定してしまった。
「違う?」
「いえ…、違わないんですけど…」
……どうしよう!
マヤは顔を赤くしながらも、なんとか軌道修正をしようと試みたがうまくいかない。
気づけば背後の扉を開けていた。
「あの…! 送っていただいてありがとうございました。お疲れ様でした!」
そのまま逃げるように部屋の中に入ると頭を下げて扉を閉めてしまった。
ばたんと目の前で閉められた扉を呆然と見つめているリヴァイ。
数秒ほどしてから、つぶやく。
「……ゆっくり休め」
そのまま黙って歩き出す。
頭の中は、疑問符でいっぱいだ。
……一体今のは… なんなんだ?
“気持ちは決まっている” とは?
“違う” とは?
“違わない” とは?
さっぱりわからねぇ。何が言いたいんだ、マヤは。
ただひとつ確かなのは、俺の気持ちは決まっているということ。