第26章 翡翠の誘惑
……どうしたらいいかだと?
馬鹿野郎、そんなものは決まってるだろうが。
この先ジムの野郎に言い寄られても即座に拒絶しろ。
ジムだけじゃねぇ。
言い寄ってくる男は無視しろ、笑いかけるな、話すな、見るな。
……俺だけを見てろ!
そう言えたら。
けれども実際に声となってマヤにかけた言葉は違った。
「さぁな。自分の気持ちに従えばいいんじゃねぇか?」
こうやって言ってしまえば、不本意だがこれが正解のような気がしてくる。
“他の男を見るな、俺だけを見ろ” なんてケツの青いガキがほざくことじゃねぇか。
マヤの気持ちだってあるんだ。
……というか、それが一番大事だろうが。
「……そうですよね。わかりました。誰に…、何を言われたとしても、自分の気持ちに素直になります」
「あぁ、そうしてくれ」
リヴァイはさらりとそう返したが、数秒後に疑念が湧いた。
……誰に…、何を…?
俺以外の誰に何を言われても… と言った気が最初はしたが、そうとは限らないんじゃねぇか?
誰に… の中には、俺も含まれている気がする。
途端に焦燥感が沸き立つ。
マヤが他の男に言い寄られたら断ると言っていると解釈したのは、とんでもねぇ勝手な間違いで、その男に惚れる可能性だってある。逆に俺が誘ったところで、マヤが自分の気持ちに素直になって首を横に振る可能性も…。
悪い可能性ばかりが頭に浮かんで顔色の悪いリヴァイを、マヤはとびきりの笑顔で見上げた。
「そうしますね! ……なんだかそうと決めたら、すっきりしました。何も迷う必要なんかないですもの」
やたら明るいマヤの笑顔と声に、リヴァイは戸惑っている。
「迷う必要がない…?」
「ええ。私の気持ちは決まってますから」
さらりとそう言ってのけたマヤは、すぐに自身の言葉に驚いて “あっ” と息をのんだ。