第26章 翡翠の誘惑
その部屋の黒板には “壁外調査出陣時における援護班の在るべき様相” などという大げさなタイトルとともに、少々下手くそなイラストが描かれていた。
騎馬で疾走する調査兵の上空を飛んでいる駐屯兵。調査兵と同じく騎馬で並走する駐屯兵。
……絵はまずいが、熱意はすげぇな。
そう思った。
しばらく三人の激しくぶつかる意見に耳を傾けた。
どうもイラストの示しているように、援護するときに馬に乗った方が効率的なのではないかというのが、俺をここに連れてきたイアンの意見だった。
それに対してミタビという上背のあるあご鬚は同意を表し、ちっこいクソメガネみたいなリコは冷めた表情をして終始 “そんなうまくいく訳がない” と反対していた。
「なんでだよ、リコ! さっきから何を言っても反対して。その根拠は? 理由を言えよ」
「理由は私もわからないけどさ…。今のところ… といっても私が入団してからしか知らないけど、馬に乗らなくても援護できてる。誰も死んでないしね。状況を変える必要を感じないってだけ」
「そりゃたまたま出陣のときに死者は出てないけど、ひやっとしたりはあるだろ? もしものときのためにも、万全の態勢で臨むのは当たり前じゃないか」
「……万全の態勢ねぇ…」
リコのイアンを見る目は冷ややかだ。
「リヴァイ兵長は援護班の騎馬での討伐や遠隔地までの並走を、どう考えますか?」
「……そうだな…。半分名案で、半分愚案だな」
イアンは理解できないといった様子で目を丸くし、ミタビは無表情、リコはかすかに… シニカルな雰囲気で口の端をゆがめた。
「愚案とはどういう意味ですか?」
そう訊いてきたイアンの声はまっすぐだった。