ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第14章 消えない傷
《クリスside》
ベイリーに驚いた様子を見せたダリウスは、立ち上がって俺の姿を探した。バチッと目が合う。
ダリウス…
「……クリス!」
会いたくなかった。
話すのが怖かった。
でもダリウスの声を聞いたら…あぁ、やっぱり大好きな声だと思ってしまった。
ベイリーのリードを掴んだダリウスは走って俺の元にやってきた。俺は逃げるように背を向けて走り出そうとする。
「…待って!クリス!」
「……ッ!」
腕を掴まれる。
ダリウスだ…この手の温かさを忘れたことはない。
「………はなして、よ」
「ごめん、クリス…!話がしたい!…クリスに会いたくてずっと待ってたんだ」
俺を…待ってた?
視線を上げるとダリウスは眉を下げ懇願するように俺を見つめていた。…その視線に負けて、俺はダリウスと並んでベンチに座った。ベイリーは俺に寄り添うようにおすわりしていた。
沈黙を破ったのはダリウスだ。
「……クリス、ごめん」
「……」
「本当に、…ごめん」
「……」
「俺は酷いことをして、キミを傷付けてしまった…それをどうしても会って謝りたかった」
「…ぼくのこと、本当は好きじゃなかったの?」
「え?」
「…愛してるって言ってくれたのは嘘だったの…?」
「嘘じゃない!」
「なら!…どう、して…!」
ダリウスは突然頭を抱えて深く息をついた。
「…恥ずかしい話なんだ…俺は、自分の性欲に負けてしまった…」
「…性欲?」
「……あぁ、クリスには…まだわからないことかもしれないけど」
「それって…セックスのこと?」
ダリウスはバッと音がしそうなほど勢いよく顔を上げた。そして悲しそうな顔をしてまた俯いた。
「…ごめん」
「あの女のことが好きなの…?」
「……いや」
「なら!ぼくと、してくれたらよかったのに」
「クリス…」
「ぼく調べたよ…セックスは愛情表現のひとつなんでしょ?それなのにどうしてぼくとはしてくれなかったの?」
「…クリスはまだこどもじゃないか!」
「すぐに大きくなるよ!」
「いいや、それだけじゃない…!」
…なに…?
「…クリスは、男の子だろ?」
俺は頭を鈍器で殴られたようだった。
「男同士で、セックスは出来ない」
「…できるよ」
俺は必死だった。
「…………クリス」
「ぼく、知ってる…」